過剰な脂肪蓄積を防ぐために腸ホルモンが肝臓のはたらきを調整するメカニズムが発見される
食事の後で体内に過剰な脂肪が蓄積しないように、腸ホルモンが肝臓にはたらきかけて脂肪の生成を調節するメカニズムを、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが発見しました。肥満のマウスや非アルコール性脂肪性肝疾患の人ではこのメカニズムがうまく機能していないとのことで、将来の治療法開発に役立つ可能性もあるとされています。
Intestinal FGF15/19 physiologically repress hepatic lipogenesis in the late fed-state by activating SHP and DNMT3A | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19803-9
Study: Gut hormones' regulation of fat production abnormal in obesity, fatty liver disease | Illinois
https://news.illinois.edu/view/6367/1948733727
New Mechanism Halts Fat Production After Eating | IE
https://interestingengineering.com/new-mechanism-halts-fat-production-after-eating-could-treat-obesity
食事をとると体内では代謝システムが活発になり、食物を消化してエネルギーを取り込もうとします。その一部としてすい臓がインスリンを生成し、消化された食物を脂肪に変換して体内に蓄積するリポジェネシス(脂質生成)という肝臓のはたらきをトリガーするプロセスがあります。
以前から、最後に食事をとって数時間が経過すると体が絶食モードに移行し、肝臓における脂肪の生成が遅くなることが知られていました。ところが、脂質生成がオフになるプロセスについては、これまで知られていなかったとのこと。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で分子・統合生理学を研究するJongsook Kim Kemper教授らの研究チームは、マウスではFGF15として知られ、人間ではFGF19として知られている腸ホルモンが、肝臓における脂質生成をオフにすることを発見しました。FGF15/FGF19はスモールヘテロダイマーパートナー(SHP)という調節分子を活性化し、脂質生成細胞の遺伝子発現を抑制していると研究チームは述べています。
たとえば、クッキーを食べた直後に体がインスリンを放出し、脂質生成を促進することは体にとって必要なことですが、クッキーを食べてから数時間が経過しても脂質生成が継続していると、過剰な脂肪が蓄積してしまいます。これを防ぐために、食事から数時間がたって絶食モードに移行すると腸がFGF15/FGF19を放出し、脂質生成を抑えるという仕組みになっているとのこと。Kemper教授は、「この腸ホルモンは実際にインスリン活動のブレーカーとして機能し、肝臓における脂質生成を特異的に阻害して厳密に調整します」とコメントしました。
さらに研究チームは、肥満のマウスおよび非アルコール性脂肪性肝疾患の人間を対象にした実験を行い、FGF15/FGF19のはたらきを調べました。すると、肥満のマウスや非アルコール性脂肪性肝疾患の患者ではFGF15/FGF19により活性化されるSHPの働きが不十分であり、遺伝子発現の抑制がうまくいかないことが判明したそうです。
「脂質生成をオフにするメカニズムを明らかにした今回の研究により、肥満や非アルコール性脂肪性肝疾患、その他の代謝障害についての理解が深まります。また、肥満がリスク要因となる糖尿病や特定のがんなどの疾患についても、今回の研究が影響を及ぼす可能性があります」とKemper教授は述べ、このメカニズムを標的とした治療法の開発につながる可能性を示唆しました。
・関連記事
ストレスがある時に高脂肪の食事をすると通常時よりも太りやすい - GIGAZINE
体内の脂肪の3分の1を18日間で減少させることが可能なタンパク質が発見される - GIGAZINE
食べるだけでストレスが吹き飛ぶ「ストレス解消食」や「脂肪を燃焼させてくれる食事」は存在するのか? - GIGAZINE
「食事する時間帯を1日10時間以内に限定する」だけで肥満や糖尿病が改善したとの研究結果 - GIGAZINE
「炭水化物や脂質は肥満の直接の原因ではない」という肥満の新理論とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ