月に直径100メートルの「究極の巨大望遠鏡」を設置するというアイデア
宇宙のかなたをより詳細に観察すべく、記事作成時点では地球上に設置する3基の超巨大望遠鏡の開発が進められているほか、月面のクレーターを巨大電波望遠鏡に変えるというプロジェクトも進行中です。そんな中、アメリカ・テキサス大学オースティン校の天文学者らは、かつてNASAで検討が進められながらも断念された「究極の巨大望遠鏡(Ultimately Large Telescope:ULT)」こそ、宇宙誕生の秘密に迫るのに必要だと主張しています。
[2007.02946] The Ultimately Large Telescope -- what kind of facility do we need to detect Population III stars?
https://arxiv.org/abs/2007.02946
Texas Astronomers Revive Idea for ‘Ultimately Large Telescope’ on the Moon | McDonald Observatory
https://mcdonaldobservatory.org/news/releases/20201116
Astronomers to propose putting 'Ultimately Large Telescope' on the moon | TheHill
https://thehill.com/policy/technology/526424-astronomers-to-propose-putting-ultimately-large-telescope-on-the-moon
テキサス大学オースティン校の天文学者であるアンナ・シャウラー氏らのグループが提案しているULTは、かつてNASAが「月面液体鏡式望遠鏡(Lunar Liquid Mirror Telescopes:LLMT)」と呼んでいた望遠鏡を巨大化させたもの。以下が、実際にNASAで計画されていた直径20メートルのLLMTのイメージ図です。天文学者らは、これよりもさらに巨大な直径100メートルのULTを月面に建造する必要があると訴えています。
シャウラー氏によると、ULTは「例えるなら、水が入った巨大な容器を回転させて、その上に液体の金属を浮かべたもの」とのこと。液体を回転させると遠心力で中央がへこみますが、そこに光を反射する液体金属を浮かべることで、巨大な凹面鏡の代わりにするというのがULTの基本的な原理です。
この方式であれば、一般的な反射望遠鏡とは違って巨大なガラス製の主鏡を月面に運搬する必要がないため、比較的安価に建造することができます。とはいえ、このアイデアは2008年にアリゾナ大学の天文学者らがNASAに建造を提案したものの、最終的に断念された代物。シャウラー氏らがそんな望遠鏡に注目しているのは、「2021年に打ち上げられるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)をもってしても、宇宙誕生直後の『原始の光』を捉えることはできない」ことが分かってきたためです。
シャウラー氏らは、ULTの必要性について「JWSTは銀河が最初に形成された時代に迫るでしょう。しかし、最近の理論では、銀河が存在する前に種族IIIの星、すなわち初代星が形作られた時代があったと予測されています。その証拠となる極めて微弱な光を捉えるのは、高性能なJWSTによる長時間露光でも困難です。そこで必要になるのがULTです」と説明しています。
シャウラー氏らは、同じ方向から入射する光をできるだけ多く観測できるように、ULTを月の北極か南極に設置する考えだとのこと。またULTは、月面に設置された太陽光発電所の電力と遠隔操作により自動的に観測を行い、観測データを月軌道の衛星に送信することが想定されています。
ULTを発表する声明の中で、論文の共著者であるVolker Bromm氏は「宇宙の歴史の始まりに光を当てるのは、重要なテーマです。最初の星の出現は、ビッグバンで始まった原始的な世界が複雑化し、惑星や生命、私たちのような知的な存在が生まれるまでの重要な過程をたどる道しるべとなります」とコメントしました。
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