サイエンス

有望な新型コロナワクチンの試験結果について掘り下げる6つの質問とは?


2020年11月、新型コロナウイルスのワクチン開発を行うファイザーが、「90%を超える予防効果がある」とする臨床試験の暫定結果を発表。これに続いてModernaも、開発中の新型コロナウイルスワクチンが「94.5%超の有効性を臨床試験で達成した」と発表しました。有望な発表が相次ぐ中で、ポーツマス大学でヘルスケアの上級講師を務めるSimon Kolstoe氏が、新型コロナウイルスのワクチン開発について「結果をより深く掘り下げる6つの質問」についてまとめています。

Moderna follows Pfizer with exciting vaccine news – how to read these dramatic developments
https://theconversation.com/moderna-follows-pfizer-with-exciting-vaccine-news-how-to-read-these-dramatic-developments-149935

ファイザーが新たに開発した「BNT162b2」というワクチンは、2020年11月9日に発表された第III相臨床試験で「90%を超える予防効果がある」との暫定結果が出たと報じられています。また、Modernaは11月16日に第III相臨床試験の暫定結果を報告し、「mRNA-1273」というワクチンが「94.5%の予防効果」を達成した述べました。

開発中の新型コロナワクチンが治験で「94.5%の予防効果」を達成したとModernaが発表 - GIGAZINE


こうした発表は新型コロナウイルスのワクチンに関する「速報」といえるもので、詳細については明かされておらず、現実でワクチンが使用された場合には異なる結果が出る可能性も残されています。そんな新型コロナウイルスのワクチン開発について理解を深めるために、Kolstoe氏が「掘り下げるべき6つの質問」としているものは以下の通り。

◆1:臨床試験の結果は「ワクチンが安全である」ことを意味するのか?
数千人の被験者を含む第III相臨床試験を無事に通過した場合、ワクチンはほぼ安全だとKolstoe氏は指摘。製薬会社だけでなく外部の科学者も臨床試験の結果を確認できるシステムがあるため、臨床試験の結果はかなり信頼性が高いとのこと。その一方で、今回のファイザーやModernaのように、臨床試験の最終結果ではなく暫定的な結果のみが発表されている場合は、依然として注意が必要だとKolstoe氏は述べています。

また、一部の人々は新型コロナウイルスのワクチンが前例のないスピードで開発されている点を懸念していますが、ワクチン開発の大部分は優れた安全性プロファイルを備えた技術に基づいています。一部では新しい技術も使われているものの、臨床試験や規制プロセスは非常に厳格であるため、重大な合併症は開発初期に検出されるとKolstoe氏は主張。ワクチン接種による長期的な副作用を検出することは依然として困難ですが、ワクチンにおいて長期的な副作用が出る可能性は低く、接種した場合のメリットが接種しない場合のデメリットを上回ることが一般的だそうです。


◆2:発表された数字は臨床試験の目的を正確に反映したものなのか?
臨床試験では一つの項目だけでなく、複数項目の結果が測定されることが一般的ですが、その中でも「臨床試験で一番知りたいこと」が設定されています。研究チームは多様な測定項目の中から「有望な結果」のみを抽出して発表することもできるため、臨床試験の結果について考える際は、最初に設定された一番の目的が達成されているかどうかをチェックすることが重要だそうです。なお、ファイザーやModernaの発表はあくまでも中間結果に基づいたものであるため、最終的な結果とは異なる可能性がある点に注意が必要だとKolstoe氏は指摘しています。

◆3:臨床試験はワクチンの効き目を正しく測定したのか?
病気の治療や症状の緩和を目的とした医薬品の試験においては、何を基準にして「薬が効いた」と判断するのかが複雑になる場合があります。しかし、ワクチンの場合は比較的単純であり、「ワクチン接種を受けた人が病気にかかったのかどうか」が問題となるため、この点に注意して結果を見る必要があるとのこと。


◆4:ワクチンの被験者はどういった人々なのか?
臨床試験の結果を実社会に適用できるかどうかも、考えるべき重要な問題です。臨床試験では「実際に薬やワクチンを投与されるグループ」と「偽薬を投与されるグループ」に分けて、ワクチンなどの効果が慎重に測定されます。しかし、臨床試験に参加する被験者の集団に偏りがあった場合、試験結果がそのまま実社会に適用できない可能性があります。

たとえば、第I相臨床試験においては、被験者は一般的に若くて健康な人々で構成されていることが多いため、実社会を構成する集団とは異なっています。臨床試験のフェーズが進むにつれて被験者が実社会の母集団に近づいていき、最終フェーズである第III相臨床試験では実社会ほぼ同じ集団が確保されるとのこと。

多くの場合、臨床試験の研究チームは被験者の人種・年齢・性別といった内訳を公表し、年齢や性別といったグループごとに結果に違いがあったかどうかを報告します。そのため、最終的な結果で「高齢者においてはワクチンの有効性が低い」といった問題が浮上する可能性もあるため、グループごとの有効性について判明するまでは、結果を慎重に見るべきだとKolstoe氏は述べています。


◆5:ワクチンは使用可能になるのか?
ワクチンが使用可能になるかどうかについては、ワクチンの費用や製造スケール、輸送や保管の方法、接種に使う機器の確保といった複数の要素が関連してきます。そのため、臨床試験を突破したからといってすぐにワクチンが使用可能になるとはいえず、安全性や有効性以外の側面で障害が発生する可能性もあるそうです。

◆6:報告された内容を信頼できるのか?
学問分野のニュースについて考える際、信頼できるソースと信頼できないソースを区別することは重要なスキルです。SNSでは表面的、あるいは間違った情報が広まる傾向が高いため、限られた文字数によるくだけた解説をうのみにせず、情報のソースについて検討することが必要といえます。

内容をわかりやすく解説した記事についても、複数の記事を比較検討して内容を精査したり、記事が参照した論文や公式発表について調べたりすることが重要です。また、査読付きの学術誌に掲載された論文は、査読を受けていない論文よりも信頼性が高いといえます。なお、ファイザーやModernaが発表した臨床試験の結果は、記事作成時点では論文として発表されたわけではない点に注意が必要です。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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