サイエンス

「植物由来のインフルエンザワクチン」が登場、大規模な臨床試験でも効果が確認される


毎年冬になると流行するインフルエンザから身を守るため、秋になるとインフルエンザワクチンを接種する人も多いはず。「植物由来のインフルエンザワクチン」を開発したカナダの研究チームが、世界で初めて大規模な臨床試験を行ってワクチンの効果を確認したと報告しました。

Efficacy, immunogenicity, and safety of a plant-derived, quadrivalent, virus-like particle influenza vaccine in adults (18–64 years) and older adults (≥65 years): two multicentre, randomised phase 3 trials - The Lancet
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32014-6/fulltext


First human efficacy study of a plant-derived influenza vaccine - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673620320109

First-Ever Flu Vaccine Derived From Tobacco Plants Just Smashed Clinical Trials
https://www.sciencealert.com/large-scale-studies-test-flu-vaccine-derived-from-tobacco-plants-for-the-first-time

インフルエンザウイルスには多くの型がある上にタンパク質の変異も早いため、1年ごとに新しいインフルエンザワクチンを接種しなければなりません。研究者らは毎年、次のシーズンに流行するインフルエンザウイルスの型を予想して、ウイルスに対応したワクチンを製造しています。


記事作成時点では、大規模なインフルエンザワクチンの製造においてニワトリの卵を用いた培養法が一般的に採用されています。これは鶏卵内にインフルエンザウイルスを注入して培養し、精製することでワクチンを作り出す方法ですが、近年では植物を用いた培養法が考案されているそうです。

カナダの研究チームは、タバコの近縁種であるNicotiana benthamiana(ベンサミアナタバコ)という植物に遺伝子操作したアグロバクテリアを感染させ、植物の内部でインフルエンザウイルスの外殻に似たタンパク質を生産させたとのこと。アグロバクテリアは植物の細胞に感染してDNAを送りこむ性質があるため、植物のバイオテクノロジー研究で使われます。

次に、研究チームはベンサミアナタバコの葉からインフルエンザウイルスに似た粒子を抽出し、ワクチンを作る時と同等の条件下で精製することで、植物由来のインフルエンザワクチンを作成しました。今回、植物から作られたインフルエンザワクチンは、対象となるウイルス株の多い4価インフルエンザワクチンだとのこと。


実際に植物由来のインフルエンザワクチンの安全性や効果を確かめるため、研究チームは大規模な第III相臨床試験を2回に分けて実施しました。2017年~2018年のインフルエンザシーズン前に行われた第1回臨床試験では、アジアやヨーロッパ、北米に住む1万人以上に及ぶ18歳~64歳の人々を対象に、植物由来のインフルエンザワクチンと偽薬が投与されました。

臨床試験の結果、植物由来のインフルエンザワクチンは被験者の体内で免疫応答を誘発し、35%の被験者においてインフルエンザなどの呼吸器疾患からの保護効果が確認されたとのこと。これは当初の目的であった70%の有効性に達しませんでしたが、同時期にイギリスで接種が行われたインフルエンザワクチンよりも有効性が高かったと研究チームは主張しました。この結果について、インフルエンザワクチンの有効性はシーズンに流行するインフルエンザウイルスの株に影響されるため、1年ごとの変動が大きい点にも研究チームは言及しています。

2018年~2019年のインフルエンザシーズン前に実施された第2回臨床試験では、65歳以上の高齢者1万2000人以上に対して、植物由来のインフルエンザワクチンと鶏卵を用いて作成されたインフルエンザワクチンが投与され、それぞれの有効性が比較されました。この臨床試験でも、「植物由来のインフルエンザワクチンの有効性は、鶏卵由来のインフルエンザワクチンに匹敵する」との結果が得られたそうです。


研究チームによると、植物由来のインフルエンザワクチンはウイルス株の選定から2カ月以内に製造可能だとのこと。インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症研究者であるJohn Tregoning氏は、今回の研究についての解説で、植物由来のインフルエンザワクチンを開発することは、鶏卵由来のインフルエンザワクチンにおける問題を解決する上で重要だと指摘しています。

Tregoning氏が鶏卵由来のインフルエンザワクチンにおける問題として挙げているのは、「鶏卵で培養している過程でインフルエンザウイルスがニワトリの細胞に適応してしまい、ワクチンの抗原性が変化してしまう」という点です。「卵馴化」とも呼ばれるこの現象は、インフルエンザワクチンの効き目にも影響を及ぼすため、代替となるワクチン製造方法の開発は重要な課題です。

さらに、「鳥に由来するインフルエンザが流行した場合、鶏卵を用いたワクチン製造方法に影響が出るかもしれない」「大規模なパンデミックが起きた場合には、鶏卵由来のワクチン製造方法だけでは必要量をまかなえない可能性がある」といった問題も、植物由来のインフルエンザワクチンが解決できるかもしれないとのこと。

Tregoning氏は、「植物由来のワクチンが臨床試験でテストされたのはこれが初めてです。これは技術の大きなマイルストーンであり、他の植物ベースのワクチンや治療法の種をまきます」とコメント。その一方で科学系メディアのScience Alertは、植物由来のインフルエンザワクチンが規制当局の承認を受けるには長い道のりが必要な可能性が高く、すぐには実用化されない点に留意する必要があると主張しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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