サイエンス

「年を取るにつれ学習意欲が落ちる」原因となる脳の回路を特定、再活性化によりやる気を取り戻せる可能性も


人は年を取るごとに新しいことを学習するモチベーションを失っていきます。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、マウスを用いた実験で、モチベーション低下において重要な役割を果たす脳回路を特定しました。研究チームはこの回路を再活性化させることでマウスの学習に対するモチベーションが上がり、抑圧することでモチベーションが下がることを確認しています。

Striosomes Mediate Value-Based Learning Vulnerable in Age and a Huntington’s Disease Model: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31301-5

Study helps explain why motivation to learn declines with age | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2020/why-learn-motivate-age-decline-1027

運動調節や、認知機能、感情、動機付けといったさまざまな機能を担う大脳基底核の一部である線条体は、意志決定などに関わっていると考えられています。MITの神経科学者であるアン・グライビエル氏は線条体内に存在する「ストリオソーム」という回路について長年研究を続けており、今回新たに、ストリオソームが学習意欲に大きく関わることを明らかにしました。

ストリオソームは脳の奥深くに存在するためfMRIなどで捉えることが難しく、いまだ謎に包まれています。しかし、グライビエル氏ら研究チームは、過去にストリオソームが「接近-回避型葛藤」の意志決定に重要な役割を果たすと発見しました。「接近-回避型葛藤」とは「甘いものを食べたいけれど、太るのは嫌だ」というような肯定的欲求と否定的欲求の間で生じる葛藤のことで、人に大きな不安をもたらすと考えられています。


すでにグライビエル氏はこれまでの研究でストリオソームがドーパミン作動性の黒質と接続していることを発表しており、これを受けて多くの研究者が「ストリオソームは皮質から届いた感情情報や感覚を吸収し、これらを統合することにより行動の決定を行っているのではないか」と仮説を立てました。その後、2017年にグライビエル氏はマウス実験を行い、ストレスを与えたマウスは高リスク・高リターンの決定を行いやすくなる一方で、ストリオソームの回路を操作したマウスはこのような決定を行わないという研究結果も示しています。

そして新たな研究でグライビエル氏は、マウスがポジティブな結果とネガティブな結果を生み出す決定を学習した時のストリオソームの働きについて観察と分析を行いました。


この実験では、マウスの2種類の音を聞かせました。1つ目の音は「砂糖水」という報酬と結び付けられており、2つ目の音は「明るい光」という嫌悪感と結び付けられていたとのこと。実験を繰り返すごとにマウスは「水の注ぎ口を舐めている時に1つ目の音が流れると多くの砂糖水がもらえる」「2つ目の音が流れている時に注ぎ口を舐めていないと光が弱くなる」ということを徐々に学習していきました。

このような種類の学習は「コスト」と「報酬」の評価を必要とします。研究者は、マウスが学習している時にはストリオソームが他の線条体内に存在する回路よりも活動が多くなり、またこの活動は2つの音に対するマウスの行動とも関連していることを確認。ここから、ストリオソームが「特定の結果に対して主観的な価値を割り当てること」に重要であると考えました。


また研究者は、生後13~21カ月という人間で言うと60歳以上に相当する高齢マウスは、コスト・報酬分析を必要とする学習への取り組みが小さくなることを観察しています。さらに、高齢のマウスは若年のマウスに比べてストリオソームの活動が小さいことや、線条体が変性するハンチントン病のマウスでも同様のモチベーション低下を確認しました。

しかし、高齢のマウスであっても研究者が薬を投与しストリオソームを刺激すると、よりタスクに取り組むようになったとのこと。これとは逆にストリオソームの活動を抑圧するとマウスがタスクに取り組まなくなったことも確認されています。

一般的な加齢に加えて、メンタルヘルスの疾患の多くが、人間の報酬とコストの評価をゆがめる可能性があると研究者は述べています。このため研究者は、今回発見された回路の活動を強化することで、病状を改善する薬物治療の開発に取り組んでいるとのこと。

「報酬とコストの主観的評価を行うメカニズムを特定し、精神的あるいはバイオフィードバックといった現代の技術でそれを操作することができれば、患者は自分の回路を適切に活性化できるかもしれません」と研究者は述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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