サイエンス

手術なしで脳内のニューロンを制御できるという研究結果


光を当てることで神経細胞(ニューロン)の活動を制御する光遺伝学で、脳外科手術を行わなくても外から光を当てることで脳内の神経細胞を制御することに成功したという論文が発表されました。

Deep brain optogenetics without intracranial surgery | Nature Biotechnology
https://www.nature.com/articles/s41587-020-0679-9

No Implants Needed For Precise Control Deep Into The Brain - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/deep-brain-control-without-implants

光遺伝学(オプトジェネティクス)という言葉を提唱したのは、スタンフォード大学の神経生物学者であるカール・ダイセロス氏です。光遺伝学とは、「遺伝子編集によって光に反応する光感受性タンパク質を細胞内に発現させ、細胞情報を光刺激によって誘導・修飾する」という新しい手法に基づいて、細胞活動を研究する学問領域です。


光遺伝学の扉を最初に開いたのは、マックスプランク生物学研究所のピーター・ヘーゲマン氏らが1991年に発表した論文です。ヘーゲマン氏らは単細胞藻のクラミドモナスが光に応じて泳ぐ方向を変えることに注目し、光がクラミドモナスの動きに影響を与える仕組みに光感受性タンパク質であるロドプシンが関係していることを突き止めました。

そして、2005年にダイセロス氏は、光感受性タンパク質の1種であるチャネルロドプシン2(ChR2)を培養皿上の海馬由来神経細胞に発現させ、光を当てるだけで神経活動をミリ秒単位で制御することに成功しました。

by L. Andrew Bell

また、2007年に生きているマウスの神経細胞で光遺伝学の技術を応用することに成功したという論文が発表されました。これをうけて、ダイセロス氏は光遺伝学の技術を応用して、マウスに光で恐怖記憶を誘発する実験に成功。さらに2013年には、日本の研究チームが光を当てることで過誤記憶を人為的に作り出すことに成功しました。
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生きたマウスの脳内にある神経細胞を光で操作するためには細胞を制御するために脳内に光パルスを照射する必要があり、テザリングされた光ファイバーから小さな無線インプラントや伸縮性のある脊椎インプラントなど、外科手術によるインプラントの埋め込みが必要とされてきました。

そこで、ダイセロス氏は、2019年に海洋生物から発見したChRmineと呼ばれる新しい光感受性タンパク質をマウスの脳細胞に発現させました。そして、頭蓋骨の外側から赤い光を当てることで、最大7ミリメートルの深さにある中脳や脳幹の神経細胞をミリ秒単位で制御することに成功しました。

従来の光遺伝学的手法では、光感受性タンパク質を発現させるために、特定の形質遺伝子を注入したウイルスを脳に注射する必要がありました。これを回避するため、ダイセロス氏のチームは、2016年にカリフォルニア工科大学で開発されたPHPウイルスを血液内に注射する方法を取ったとのこと。つまり、光源だけではなく、光感受性タンパク質の遺伝子も脳に対して非侵襲的な方法で注入されたというわけです。

by balapagos

ダイセロス氏は今回発表した非侵襲的方法をマウスだけではなく魚にも応用できないか試験中だとのこと。また、他の研究チームと協力して、人間以外の霊長類にも応用する研究を進めているそうです。ダイセロス氏は「これは、16年間行ってきた研究における、素晴らしい締めくくりの1つです」とコメントし、「この非侵襲的な光遺伝学的手法をすべての人と共有できることを嬉しく思います。これらが広く利用可能で適用可能な研究ツールになることを願っています」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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