サイエンス

手で文字を書いたり絵を描いたりすることで子どもは賢くなるのか?


授業内容を手書きでメモすると、PCやスマートフォンでメモを取るよりも、良い成績をあげられる傾向にあることが明らかになっています。そんな文字を手書きすることの効果を調査したところ、手書きを行う子どもはより賢く育つ可能性があることが明らかになっており、国のガイドラインとして「最低限度の手書きの機会を保証すべき」と研究者が主張しています。

Frontiers | The Importance of Cursive Handwriting Over Typewriting for Learning in the Classroom: A High-Density EEG Study of 12-Year-Old Children and Young Adults | Psychology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01810/full

Why writing by hand makes kids smarter | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-10/nuos-wwb100120.php

Norwegian University of Science and Technology(NTNU)で神経心理学の教授を務めるオードリー・ファン・デル・メール氏が率いる研究チームが、子どもたちが最低限の手書きの機会を得られるように、国のガイドラインを整備する必要があると主張しています。


メール氏はこれまで複数回にわたり「手書き」の効果を測るための調査を行ってきました。2017年の最初の調査では、メール氏ら研究チームが20人の学生の脳活動を分析しました。そして2020年の調査では、12人のヤングアダルトと12人の子どもの脳活動を調べています。なお、子どもが文字を手書きする際の脳活動を調べたのは、今回の調査が初めてです。

メール氏らの調査では、被験者の脳活動を調査するために250個以上の電極が取り付けられたフード型の器具を使用。脳は活動時に電気信号を発するのですが、フード型器具の250個の電極が脳の電気信号を検出することで、被験者の脳で起きている電気的活動を感知できるようになっているわけです。


調査は被験者1人当たり45分間行われており、研究チームは1秒当たり500ものデータポイントを取得したそうです。調査の結果、ヤングアダルトと子どもの両方で、キーボードで文字を入力するよりも手書きで文字を書く方が、脳がはるかに活性化することが明らかになっています。

文字を手書きする場合、字を書く際に出る音や紙のすれる音など、さまざまな感覚が人間を刺激します。これらが脳の感覚運動関連の領域をより活性化させ、脳を学習に適した状態にするそうです。メール氏は「ヤングアダルトと子どもの両方で、手書きの方がより良く学び、より良く覚えられることが明らかになりました」と語りました。


メール氏は今回の調査結果について、「幼い頃に子どもたちが、特に学校で絵を描いたり文字を手書きしたりすることの重要性を強調しています」と語り、学校などの教育機関で手書きの機会を設けることは、子どもの成長において重要なものとなると主張しています。

しかし、現代では学校の教育現場でもキーボードをタイピングしたり、タッチスクリーンをタップしたりする機会が増加しつつあり、文字を手書きする機会は確実に減少しつつあります。EUの19カ国を対象とした調査によると、調査対象の中で「子どもが最も長くデジタル機器と共に過ごしている国」はノルウェーだそうです。調査によると、9~16歳のノルウェー人の子どもたちは1日平均で4時間ほどの時間をオンライン上で過ごしているとのこと。なお、2010年に行われた同様の調査では、ノルウェーの子どもがオンライン上で過ごす時間は約半分の1日当たり2時間程度だったそうです。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中でますますデジタル機器を使った学習機会が増えていますが、メール氏はデジタル学習が悪いと訴えているわけではありません。メール氏は「過去数年間でデジタル学習の機会が増えたことを考えると、1つ以上の世代が手書き能力を失う危機に瀕しています。我々の研究と他の研究は、デジタル学習の機会増加に伴う不幸な側面を浮き彫りにするものです」と述べています。


加えて、メール氏ら研究チームは子どもたちが最低限度の手書きの訓練を行えるような機会を確保すべきと主張。メール氏は「ノルウェーの一部の学校では授業が完全にデジタル化されており、手書きを行う機会が完全に失われてしまっています。また、フィンランドの学校では、ノルウェーよりもさらにデジタル化が進んでおり、手書きの機会を提供する学校はほとんどありません」と語りました。

また、一部の教師は子どもがキーボードを使って学習することは、「子どもたちの欲求不満を満たすことにつながる」や「キーボードの習熟度が高まることで学習意欲の向上にもつながる」と主張しています。

こういった状況に対してメール氏は、「手で書くことを学ぶことは少し遅いプロセスかもしれませんが、子どもたちが手書きを通して学ぶことは重要です。手書きすることで子どもたちは複雑な手の動きをトレースすることとなりますが、これはキーボードを使用するだけでは得られない動きです。手書きすることで、子どもは『細かい運動能力』や『感覚を制御する方法』を身につけることができます。そして、これらを通して脳をできるだけ頻繁に学習状態にすることが重要です。私もキーボードを使用してエッセイを書いていますが、講義中のノートは手書きで取っています」と述べました。


メール氏は「脳は人間が適切な行動を取れるように、何千年もかけて進化を遂げてきました。脳が可能な限り最良の方法で成長するには、脳を最高の状態で使用する必要があります。我々はすべての感覚を使い、外に出て、あらゆる種類の天気を体験し、他の人と出会う必要があります。脳が限界に挑戦しなければ、その潜在能力を最大限に発揮することはできません。手で書くことは脳の潜在能力を最大限に発揮するために重要なことであり、これは学校の成績にも影響してきます」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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