170万人の遺伝子の分析で「左利き」に関する41の遺伝子が新たに特定される
人間はもとより、ネコやミツバチにも「右利きと左利き」の違いがあることが分かっていますが、この違いがなぜ発生するのかは長年にわたり謎に包まれていました。2019年に発表された研究により、左利きに関係がある遺伝子の変異が4カ所特定されましたが、新たに発表されたより大規模な研究により、さらに41カ所の遺伝子が利き手の問題に複雑に関与していることが判明しました。
Genome-wide association study identifies 48 common genetic variants associated with handedness | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-020-00956-y
Researchers get a better grip on left and right handedness - Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/41-areas-of-genetic-code-linked-to-left-handedness-also-suggest-link-to-mental-health-issues
There's no single gene for left-handedness. At least 41 regions of DNA are involved
https://theconversation.com/theres-no-single-gene-for-left-handedness-at-least-41-regions-of-dna-are-involved-146765
Largest Study of Its Kind Identifies 41 Gene Variants Linked to Being Left-Handed
https://www.sciencealert.com/these-41-gene-variants-influence-whether-you-re-left-handed
約40万人のゲノムを分析した2019年の研究により、rs199512、rs45608532、rs13017199、rs3094128という4カ所の一塩基多型(SNP)が左利きに関与していることが分かりました。これらのうち、rs199512は脳の発達などに関与していることから、研究を実施したオックスフォード大学の研究チームは、「脳内組織である白質の構造で、細胞骨格の段階から違いが生まれ、利き手が左になるのではないか」との見解を示しています。
左利きの原因となる遺伝子変異が特定される - GIGAZINE
by Obama White House
こうした研究に続いて、オーストラリアにあるQIMRバーグホーファー医療研究所のSarah Medlan氏が率いる研究チームは、オックスフォード大学よりもさらに大規模な遺伝子解析を行う研究を実施。イギリスの長期大規模バイオバンク研究であるUKバイオバンク、アメリカのバイオテクノロジー企業23andMe、利き手に関する国際的な研究プロジェクトInternational Handedness Consortiumが保有している合計176万6671人分の遺伝子データをゲノムワイド関連解析にかけて、利き手と遺伝子の関係を調べました。なお、遺伝子データを提供した約176万人のうち、左利きの人は19万4198人だったとのことです。
遺伝子分析の結果、研究チームは左利きと関連が深い遺伝的変異41カ所と、両利きと関連が深い遺伝的変異7カ所を特定することに成功しました。論文の共著者であるGabriel Cuellar-Partida氏は、今回の大規模研究の意義について「この大規模な研究は、利き手の決定に非常に微妙な影響しか与えていない遺伝子の影響を検出するためには、統計的な力技が必要だったことを意味しています。これにより、利き手以外の神経学的形質の理解にも大規模な研究が欠かせないことや、多数の研究機関の参加が重要なことが浮き彫りになりました」と述べました。
また、Medlan氏は解析結果について、「興味深いことに、左利きに関連するゲノム領域と、両利きに関連するゲノム領域の間には、ほとんど重複がありませんでした。このことは、両利きはこれまで考えられていたより複雑な要因が関係していることを示唆しています。言い換えると、利き手の『傾向』に影響を与えるメカニズムと、利き手の『度合』に影響を与えるメカニズムは、異なるかもしれないということです」と指摘しています。
170万人以上の遺伝子データを解析する大規模な研究により、左利きや両利きに関する合計48カ所もの遺伝的変異が特定されましたが、研究チームによると、今回の研究で分かった遺伝的な差異は、利き手の違いのわずか12%しか説明できていないとのこと。
このことから、論文の共著者のデビッド・エヴァンス教授は「遺伝的要因が利き手の決定にわずかな影響しか与えていなかったということは、利き手の決定には環境的要因のほうがはるかに重要な可能性が高いことを示唆しています。これは、両利きも同様で、両手を均等に使いこなす能力には、スポーツやトレーニングなどの後天的な要因が大きな役割を果たしているのではないでしょうか」と話しました。
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