サイエンス

地球から月に吹き付ける風で月の一部がサビていることが判明


月の高緯度帯で酸化鉄を含む赤鉄鉱が発見されたと、ハワイ地球物理学・惑星学研究所(HIGP)の研究チームが発表しました。酸素がないはずの月に酸化鉄が発見された理由について、研究チームは「地球の大気が吹き付けることによって月が酸化した」と説明しています。

Widespread hematite at high latitudes of the Moon | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/6/36/eaba1940


Has Earth's oxygen rusted the Moon for billions of years?
https://phys.org/news/2020-09-earth-oxygen-rusted-moon-billions.html


鉄は酸素と非常に反応しやすい、つまりさびやすい金属として知られています。自然界に存在する鉄の酸化物には主に酸化鉄(II,III)酸化鉄(III)の2つがあり、前者は「黒サビ」、後者は「赤サビ」と呼ばれます。そして、月で発見された赤鉄鉱は酸化鉄(III)を含む鉱物です。


月には大気がほとんどなく、鉄と反応するはずの酸素はありません。そのため、月の土壌から鉄が発見されたことは過去にもありましたが、酸化鉄はこれまで発見されたことはありませんでした。仮に酸化鉄があったとしても、月に吹き付ける太陽風には水素が含まれているため、鉄に還元されてしまうと考えられていました。

しかし、HIGPとNASAのジェット推進研究所が、インドのチャンドラヤーン1号が撮影した月面のハイパースペクトルのデータを解析したところ、かつてアポロ計画で採取されたサンプルや低緯度のデータからは発見されなかった赤鉄鉱が、高緯度帯の土壌に含まれることが示されたとのこと。

研究チームによると、赤鉄鉱が存在する場所は緯度や含水量と強く相関しており、常に地球に面する月の表側に集中していることがわかったそうです。

研究チームの一員でHIGP副研究員のシュアイ・リー氏は「月面における赤鉄鉱の増加は、地球と関係がある可能性が示唆されました。日本の月周回衛星『かぐや』のデータから、太陽風によって地球の上層大気が月面に吹き付けられていることはわかっていました。過去数十億年で、月が地球の磁気圏尾部にある時、酸素を含む地球の上層大気が太陽風と共に月に吹き付けたことで、赤鉄鉱が生まれた可能性が高いというわけです」と論じています。


ただし、リー氏によれば、地球の酸素が届かないはずの月の裏側にも赤鉄鉱は微量に存在するとのこと。このことから、酸素だけではなく、月にある微量の水惑星間ダストも赤鉄鉱形成のプロセスで重要な役割を果たしている可能性があります。

「この発見は、月の極域に関する知見を再形成するでしょう。地球は月面の進化に重要な役割を果たしたのかもしれません」とリー氏。研究チームは、有人月面探査ミッションの「アルテミス計画」で、高緯度帯から赤鉄鉱のサンプルを回収できることを期待しています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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