日本政府が過去の過ちから学ばなければ新型コロナウイルス感染症による犠牲者が増えることになるという指摘
イギリスの医学誌「The BMJ」に、「日本におけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の復活」と題した論文が掲載されました。これはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のカズキ・シミズ氏、ジョージ・ウォートン氏、国際保健・医療政策を専門とする医師の坂元晴香氏、LSEのエリアス・モシアロス教授による論文で、COVID-19への日本政府の対応をまとめた上で、今後どういった戦略を立てるべきかについて指摘が行われています。
Resurgence of covid-19 in Japan | The BMJ
https://doi.org/10.1136/bmj.m3221
日本のコロナ対応に関してまとめた論考がBMJに掲載されました(共著)
— Haruka Sakamoto (@harukask1231) August 19, 2020
・検査体制を含めた保健所機能の拡充
・危機時において、自粛要請という行動変容を中心に据えた戦略
・上記に関連し、政府のリスクコミュニケーションのあり方
・政治と科学の関係性
などを述べていますhttps://t.co/NZamPZCcuk
検査については、抑制するとか拡大するとかそういう話ではなく、誰でもどこでもいつでも安心のための検査、とかいう話でもなく。
— Haruka Sakamoto (@harukask1231) August 19, 2020
どのような戦略を持って、どのような優先順位で誰に行うか、そのために必要な実施体制をどう構築するか?という話です。
日本ではCOVID-19のパンデミックを受けて換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面の「3つの密(3密)」を避ける対策が採られてきました。
【注意喚起】#新型コロナウイルス に関するお知らせです。集団発生のリスクを下げるために3つの「密」を避けて外出しましょう。
— 首相官邸(災害・危機管理情報) (@Kantei_Saigai) March 17, 2020
①換気の悪い密閉空間
②多数が集まる密集場所
③間近で会話や発声をする密接場面
詳細はこちらをご覧ください▼https://t.co/GTXEBrZuFc pic.twitter.com/3d0Rkf9omi
しかし、2020年4月の緊急事態宣言発出と、2020年5月の宣言解除を経て、再び感染者数は増加。100万人あたりの死亡率は、西太平洋地域でフィリピン、オーストラリアに次ぐ8.22となっています。
論文では、なぜ政府の対応がうまくいかなかったのか、理由を複数挙げています。
まずは「検査規模を拡大するための努力が不十分であった」ことが指摘されています。検査の受け入れ能力不足のため、医師からのPCR検査の依頼は、多くが各地域の保健所によって拒否されたとのこと。これが、地域社会と病院での後天的な感染の増加につながったとみられます。
また、こうした保健システム、特に患者情報の報告は紙ベースだったため、2020年3月中旬時点で保健所は大きな混乱に陥っていました。また、手作業は不正確さと記録の重複をもたらしました。
東京は今でもファクスと手入力 コロナ情報共有システム2カ月たっても導入進まず:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/45005
「3つの密」回避にあたって、行動を変えるよう求めるキャンペーンが効果的ではなかったという見方もなされています。行動変容に対する明確な動機付けが存在しなかったために、多くの人が行動を変えなかったという指摘です。
政府のコミュニケーション戦略も不十分であったと述べられています。「3つの密」を回避するようにということは発信されていましたが、ソーシャルディスタンスや手洗いの徹底などについて、説得力のある形では情報発信がなされていませんでした。
また、政府の対応は「政治」と「科学」の対立の影響も受けていたとみられます。内閣に設置された対策本部のもと、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が開催されましたが、真に公平な助言をするには独立性を欠いていました。さらに、経済学・行動科学・コミュニケーションなど重要分野の代表者が欠けており、意志決定のプロセスの説明も不十分でした。会議では「人との接触を8割減らすべき」という勧告が出されましたが、この内容は政府により「人との接触を最低7割、理想では8割減らす」と弱められることとなりました。
「人との接触を8割減らす、10のポイント」を公表しました(新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00116.html
安倍総理が「緊急事態宣言」発令、新型コロナウイルス感染拡大対策のため - GIGAZINE
そして、そもそも政府は説明責任と透明性を欠いていたことが指摘されています。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催延期についても、延期決定に至るまでの経緯の説明はなされませんでした。
さらに、安倍総理は緊急事態宣言を「海外でみられるロックダウンとは異なる」と説明し、対策を守ろうとする姿勢を「妨害」しました。
「緊急事態宣言=ロックダウンではない」 首相が強調:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASN4143DTN41UTFK00V.html
過去の過ちから学ぶために、パンデミック時の対応を精査することは不可欠ですが、政府は2020年6月、前述の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を廃止しています。
論文は、日本政府が新型コロナウイルス対策を「クラスターベース」から明確な指揮統制構造とコミュニケーション能力を持った体制へと移行し、過去の過ちから学んで最先端の科学を展開しない限り、日本の医療サービスが再び圧倒されて、今後数カ月で、多くの命が不必要に失われる事態になると警鐘を鳴らしています。
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