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お見合い結婚が多いイスラム社会ではどのようなマッチングアプリが受け入れられているのか?


保守的な結婚観が強いイスラム教の文化圏では、伝統的に家族や親戚による仲介での「お見合い結婚」が主流であり、男女の出会いは限られています。そんなイスラム社会でも、近年では男女の「マッチングアプリ」が人気となっていますが、イスラム社会で人気のマッチングアプリは欧米で人気のカジュアルなものとは違い、伝統的な価値観に即した独自のマッチングサービスになっているとのことです。

Muslim matchmaking apps are disrupting tradition while still “keeping it halal.” - Rest of World
https://restofworld.org/2020/muslim-dating-apps/


◆ムスリム女性の価値観を尊重し「お見合い」を再現した「Hawaya」
2010年代前半、エジプト在住の女性・Shaymaa Aliさんは20代後半になっても結婚せずにいました。エジプトの伝統的な結婚観では、20代後半で未婚というのは「『恥ずかしい』とはいわないまでも『哀れ』」という状態だったそうですが、Aliさんは家族が仲介してくれたお見合いではいい人に巡り会うことができませんでした。

イスラム社会では結婚を一種の契約と見なしており、Aliさんの両親は車やアパートを所有した「いい男性」とAliさんが結婚することを望んでいました。ところが、「エジプトでは結婚後5年以内に離婚する割合が40%」というデータを知っていたAliさんは、もっと別の側面に基づいた結婚を望んでいたそうです。


Aliさんは2014年ごろからFacebook上で「結婚がうまくいかない独身女性」としての経験を発表するようになり、やがて5万人以上のフォロワーを獲得するようになりました。「なぜ結婚を真剣に考えるエジプト人の男女が、実際に出会う前にお互いについて知ることができるプラットフォームがないのか?」というAliさんの訴えを目にしたのが、エジプト発のデートアプリ「Hawaya」の創設者であるSameh Saleh氏でした。

Saleh氏は中東に住む1億4000万人以上のスマートフォンユーザーのうち72%が34歳未満であり、多くの人が結婚相手を見つけることに苦労している点に着目し、結婚を前提としたマッチングアプリの需要があることを感じていました。その一方で、エジプトではTinderのような西欧的価値観に基づいたカジュアルなマッチングアプリは評判が悪く、保守的な女性ユーザーを引きつける方法に課題を感じていたとのこと。そこでSaleh氏はイスラム教徒(ムスリム)であるAliさんを採用して、「イスラム社会の伝統的価値観に合致したマッチングアプリ」の開発を行いました。


こうして開発されたマッチングアプリのHawayaは、リリースから3年でエジプト国内に100万人のユーザーを抱えるマッチングアプリとなりました。2019年にはTinderやOkCupidなど複数のマッチングアプリを所有するMatch Groupに買収され、2019年からはアラビア語、ドイツ語、トルコ語、インドネシア語、英語の5カ国語で再リリースされています。

Hawayaでは年齢や婚姻状況、住んでいる地域などの基本的な質問があるほか、プロフィール画像はムスリムにとって「上品で適切」なものであることが求められ、最低年齢は21歳以上に設定されています。また、女性ユーザーが自身のプロフィール画像を非表示にして、マッチングした相手に心を許したら画像を表示できるようにするオプションや、家族がマッチング相手との会話を一緒に見ることができる機能も搭載されているとのこと。これらの機能はムスリム女性の価値観を尊重し、伝統的な「家族同伴のお見合い」の再現を意図しているそうです。

保守的な社会に所属するムスリムにとって、Hawayaのような新しいマッチングアプリは新たな求愛の形を象徴するものです。伝統的な価値観を守りつつ、これまでの方法では接触できなかった範囲の異性とマッチング可能なアプリは、エジプトのイスラム社会でも受け入れられつつあるとのこと。


◆サウジアラビア在住のムスリムに特化した「AlKhattaba」
レバノンの起業家であるCedric Maalouf氏らが開発した「AlKhattaba」というマッチングアプリは、「サウジアラビアに住むイスラム教徒」だけを対象にしたマッチングアプリです。当初、Maalouf氏は中東から北アフリカまでの広い範囲をターゲットにしたマッチングアプリを開発していましたが、文化的な違いから適切なサービスを提供することが困難だったと述べています。たとえば以前、Maalouf氏のサービスは「水たばこを吸うかどうか」という質問項目を設けていましたが、一部の国で性的な意味合いを持つ質問であったことから、削除されました。

Maalouf氏らは「最もマッチングアプリのトラフィックが多い国に注力する」という方針に転換し、一度は撤退した中東のサウジアラビアに注力することになりました。サウジアラビアのマッチングアプリ需要は、近年、離婚率が上昇しており、理想の相手との出会いが求められているためだとみられます。AlKhattabaは男性のみ使用料がかかる形で提供されていて、Maalouf氏によると、2020年7月時点で月間アクティブユーザー数は30万人以上いるとのこと。

サウジアラビア固有の問題に対処するため、AlKhattabaでは妻と夫が同居しないミシャー婚を望む人のオプションや、一夫多妻制を望む男性とそれを許容する女性向けのオプションなどが用意されています。また、当人たちは結婚を望んでいても「親の反対」によって結婚がうまくいかないパターンが多かったことから、親の要望を組み込むようにアルゴリズムを調整するなど、現地の文化に合わせてバランスを取るよう心掛けているそうです。

また、当局がマッチングアプリに抱く懸念を緩和するために、AlKhattabaは問題のある会話を検知するチームが24時間体制で待機しているほか、アプリの品位規則に違反するユーザーを即時退会させるなどの対策をとっているとのこと。さらに、現代的な男女のやり取りになじみがないユーザーに向けて「会話をする前に相手のプロフィールを確認するように」といったアドバイスを送ることで、AlKhattabaは男女の関係をサポートしています。


◆伝統的価値観から外れたマッチングにも対応した「Muzmatch」
特定の地域ではなく、アメリカやイギリスを含む190カ国に300万人以上のムスリムユーザーを抱える「Muzmatch」も、やはりユーザーに「ハラールを保つ」ことを要求しています。しかし、Muzmatchを利用するユーザーは親世代ほど厳格な文化的価値観を有しておらず、従来の枠から外れたマッチングも可能となっているとのこと。

たとえば、リリース当初のMuzmatchは、同じ民族のパートナーをマッチングするよう設定されていましたが、データを収集した結果、ユーザーは異なる民族背景を持つ人のプロフィールをよくクリックしていることが判明。創設者兼CEOのShahzad Younas氏は「イスラム教ではカーストや民族は存在しない、少なくとも存在するべきではないという考えに基づき、私たちはいくつかの変更を行うことにしました」と述べており、「Explore(探索)」という新しいセクションから、自分とは違うバックグランドを持つ人々とマッチング可能にしたそうです。

一部の人々は、マッチングアプリは結婚を取引のように感じさせると不満を抱いていますが、そもそもイスラム社会における結婚は一種の取引だったとShahzad氏は指摘。コミュニティの年長者たちは子どもたちの結婚相手を見つけ、お見合いをさせ、失敗した際のフォローをするといった仕事に疲れており、マッチングアプリはこれらの負担から人々を解放すると主張しました。

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in モバイル,   ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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