生き物

カエルに食べられても「お尻の穴」から生きたまま脱出できる虫が発見される


多くの場合、自然界の被捕食者は周囲の環境に擬態したりさまざまな防衛システムを持ったりして、捕食者に食べられるリスクを軽減しています。ところが、日本の水田などに広く生息する「マメガムシ」と呼ばれる水生昆虫は、捕食者であるカエルに「食べられてしまった後」に生きたまま脱出する方法を持っていると、神戸大学の杉浦真治准教授が発表しました。

Active escape of prey from predator vent via the digestive tract: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30842-3

カエルに食べられてもお尻の穴から生きて脱出する昆虫を発見 | Research at Kobe
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2020_08_04_01.html

After being swallowed alive, water beetle stages 'backdoor' escape from frog’s gut | Live Science
https://www.livescience.com/beetle-escape-frog-butt.html

昆虫は捕食されないためのさまざまな逃避・防衛行動を取ることが知られており、これまでは「捕食者と接触する前」の行動が主な研究対象となっていたとのこと。しかし近年では、「捕食者に食べられた後」に捕食者の体内から脱出するタイプの行動を取る昆虫が発見されているそうです。


カエルの多くは歯がないため、丸呑みされた昆虫や小動物はその後もしばらく生き続けている可能性があります。そこで杉浦准教授は、実験室下でさまざまな陸生・水生昆虫を捕食者であるカエルに与え、昆虫がどういった逃避・防衛行動を起こすのかを研究してきました。

その結果、日本の水田などに生息する水生昆虫のマメガムシが、トノサマガエルに飲み込まれても90%以上の割合で「生きたままお尻の穴(総排出腔)から脱出できる」ということが判明したとのこと。実際にマメガムシがトノサマガエルのお尻の穴から脱出する様子は、以下のムービーを見るとよくわかります。

A beetle species can escape from the vent of a frog / マメガムシはカエルに食へ゛られてもお尻の穴から生きて脱出できる - YouTube


マメガムシは体長5mm程度の小さな水生昆虫で、池や湿地、水田といった止水域で見られます。


水槽に入れられたトノサマガエルにマメガムシを与えると……


一瞬のうちに食べられてしまいました。


口から飛び出そうになったものの……


手で押さえられ、しっかり丸呑みされてしまいました。


マメガムシが丸呑みされてから115分が経過。


トノサマガエルのお尻の穴から、黒っぽい物体が見えています。


ヌルッと飛び出してきたのは、先ほど食べられてしまったマメガムシ。


驚くべきことにマメガムシは生きており、ゆっくりともがいてトノサマガエルから離れようとしています。実験では15匹中14匹のマメガムシが、トノサマガエルに丸呑みされた後で生きたままお尻の穴から脱出することに成功したとのこと。マメガムシは頻繁にカエルの排せつ物に絡まっていたそうですが、すぐに回復して排せつ後少なくとも2週間は生存したとのことです。


マメガムシが脱出可能なのはトノサマガエルに限らず、トウキョウダルマガエルツチガエルヌマガエルニホンアマガエルに食べられた場合にも、同様の脱出行動が見られました。一方で、マメガムシと同じガムシ科に属するキベリヒラタガムシをトノサマガエルに与えた場合、捕食された13匹全てが死んだ状態で排せつされたと杉浦准教授は報告しています。


トノサマガエルがマメガムシ以外のエサを飲み込んだ場合、排せつまでは平均50時間(最小24時間~最大148時間)かかりました。ところが、マメガムシが総排出腔から生きて脱出するまでの時間は、平均1.6時間(最小0.1時間~最大3.5時間)ほどしかかからなかったそうです。カエルは通常、食後すぐには排せつしませんが、マメガムシは消化管を通る際に脚を使ってカエルの排せつを促している可能性があるとのこと。

実際に、杉浦准教授がマメガムシの脚をワックスで固定してカエルに食べさせた場合、マメガムシが生きて排せつされることはありませんでした。「これは、捕食者の総排出腔から意図的に脱出する被捕食者を記録し、被捕食者が捕食者の排せつを促して体内からの脱出を早める可能性を示す最初の研究です」と、杉浦准教授は述べています。

杉浦准教授は実験の前から、「水田に生息するマメガムシは、主要な捕食者であるカエルに対する防衛手段を持っているのではないか」と考えていたそうですが、総排出腔から脱出するという方法は予想と違っていたとのこと。「カエルの総排出腔から逃げる昆虫の映像を見て、私はとても驚きました」と、杉浦准教授は科学系メディアのLive Scienceに語りました。

なお、マメガムシ以外にも「カエルに食べられた後に生きたまま脱出できる昆虫」は存在します。杉浦准教授は2018年に、ミイデラゴミムシという昆虫がカエルなどに食べられた際、毒性のある高温の「屁」を噴射して吐き出させることを発見しています。

カエルの胃腸を「屁」で攻撃、嘔吐させる虫を発見 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/020900060/

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
動物が獲物を捕らえる瞬間をスローモーションで見るとこうなる - GIGAZINE

食虫植物は一体どうやって虫を捕獲する能力を獲得したのか? - GIGAZINE

寄生虫に寄生し思考を操作して相手に内臓を捧げさせる「Euderus set」 - GIGAZINE

なぜ虫はあんなに小さい脳で複雑な行動ができるのか? - GIGAZINE

カラスは毒ガエルの安全な部位だけを選んで上手に食べることが判明 - GIGAZINE

木の枝に擬態する虫が皮膚でも色を感知できることが研究で判明 - GIGAZINE

「イカの脳をMRIで輪切りにする」実験で犬に匹敵するイカの知能の秘密が解明される - GIGAZINE

犬は「地球の磁場」を利用して近道を探しているかもしれない - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.