サイエンス

「金属を食べてエネルギー源にするバクテリア」が実験後に放置されたフラスコから偶然発見される


地球上のあらゆる場所に生息するバクテリアの中には非常に不可思議な生態を持っているものも存在し、光合成を行うはずのバクテリアが光の届かない地底で発見されたり、電気エネルギーを直接利用して生きるバクテリアが発見されたりしています。カリフォルニア工科大学の科学者がたまたま実験道具を数カ月にわたって水に浸したまま放置したところ、「金属を食べてエネルギー源にする新種のバクテリア」が発見されたとのことです。

Bacterial chemolithoautotrophy via manganese oxidation | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2468-5

Bacteria with a metal diet discovered in dirty glassware
https://phys.org/news/2020-07-bacteria-metal-diet-dirty-glassware.html

Elusive Metal-Eating Bacteria Predicted Over a Century Ago Discovered in Lab Accident
https://www.sciencealert.com/bacteria-that-eat-the-metal-manganese-was-found-by-accident-in-a-lab


ある時、カリフォルニア工科大学の環境微生物学者であるJared Leadbeater教授は、マンガンを使った実験を行った際に、ガラス瓶を炭酸マンガン(II)化合物でコーティングしました。Leadbeater教授は実験終了後にこのガラス瓶をシンクの水に浸し、そのまま出張して数カ月ほど研究室を離れたとのこと。

やがて数カ月ぶりに研究室へ戻ってきたLeadbeater教授は、ガラス瓶をコーディングしていた炭酸マンガン化合物が、元のクリーム色から黒っぽく変色していることに気づきました。黒っぽい物質は炭酸マンガンが酸化したマンガン酸化物の一種だったそうで、Leadbeater教授がガラス瓶を放置していた間に、どういうわけかマンガンイオンが電子を失って酸化してしまったそうです。

「当時の私は『何だこれは?』と思いました」と語るLeadbeater教授は、一体なにが酸化反応を促したのかを調べることにしました。科学者らは1世紀以上前から「マンガンをエネルギー源とするバクテリアが存在するのではないか」と予測してきたそうで、Leadbeater教授はガラス瓶をコーティングした炭酸マンガンを酸化させた犯人が、マンガンをエネルギー源とする未知のバクテリアではないかと考えたと述べています。


まずは今回の現象が生物学的プロセスによるものかどうかを調べるため、Leadbeater教授と博士研究員のHang Yu氏は多くのフラスコを炭酸マンガンでコーティングし、そのうちいくつかを高温の蒸気で滅菌しました。そしてフラスコを水に浸けて放置したところ、滅菌したフラスコは変色しなかった一方で、滅菌しなかったフラスコでは炭酸マンガンが酸化されて黒くなることが確認されました。

続いて研究チームがマンガン酸化物中に存在した細菌を培養したところ、およそ70種ものバクテリアが発見されたとのこと。しかし、さまざまなテストを行った結果、炭酸マンガンを酸化させたバクテリアの候補を2種類にまで絞ることに成功したそうです。


2種のバクテリアは、それぞれニトロスビラ門ベータプロテオバクテリア綱に属するバクテリアでした。ベータプロテオバクテリア綱のバクテリアは単体だと炭酸マンガンを酸化できないそうで、ニトロスビラ門のバクテリアが単体で炭酸マンガンを酸化したか、両者が共同で炭酸マンガンを酸化させたと研究チームは考えています。

また、研究チームは「一体なぜバクテリアが炭酸マンガンを酸化させたのか?」を調べるため、炭素13でラベル付けした炭酸マンガンを培養したバクテリアに与える実験を行いました。その結果、バクテリアが炭素13でラベル付けされた炭酸マンガンを体内に吸収したことが確認され、バクテリアは炭酸マンガンに含まれる電子を使い、二酸化炭素を細胞のエネルギー源として利用可能な炭素に変換したことがわかったとのこと。

マンガンなどの無機化合物を代謝してエネルギーに変換する仕組みは、化学合成と呼ばれます。他の金属で化学合成を行うバクテリアは知られていたものの、マンガンで化学合成を行うバクテリアが見つかったのは今回が初めてであり、存在が予想されてから1世紀以上を経てようやく実在が確かめられたことになります。

by Hang Yu

マンガンは地球上に豊富に存在する物質で、ナッツやお茶、葉物野菜から人間の体内に吸収され、骨の形成などに関わる栄養素として利用されています。しかし、多くの場所で酸化マンガンが発見される一方で、「なぜいろいろな場所で酸化マンガンが発生するのか?」という点については謎でした。時には水道管が酸化マンガンで詰まってしまう事例も報告されていたものの、水道水に含まれる微量のマンガンが酸化される理由は突き止められていなかったとのこと。

今回発見されたバクテリアの近縁種は地下水に生息していることがわかっており、カリフォルニア工科大学があるパサデナの水道水は地下水を汲みあげたものでした。そのため、地下水の中に生息していたマンガンを酸化させるバクテリアが水道水に混ざり、水道管内で酸化マンガンを生み出していた可能性があるとLeadbeater教授は指摘しています。

また、海底で発見される水酸化鉄と水酸化マンガンが層状に凝結したマンガン団塊の発生にも、今回発見されたのと同様のバクテリアが関係している可能性があると研究チームは考えています。Leadbeater氏は、「金属のような一見すると代謝できそうもない物質を代謝して、細胞にとって有用なエネルギーを生み出すということは、自然界における微生物の素晴らしい側面です」とコメントしました。

by Glenn Marsch

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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