「ブタの血管とつなげる」ことで臓器移植対象から外れるほど損傷したヒトの肺を回復させることに成功
臓器提供のハードルはさまざまな方法によって下げられてきましたが、それでもなおドナーは不足しています。さらに、ドナーがいたとしても、肺が損傷を受けていて移植に使えないという事例も多々存在します。これに対し、コロンビア大学とヴァンダービルト大学の研究チームが、深刻な損傷を受けたヒトの肺を生きたブタとの「交差循環」で回復させることに成功したと発表しました。
なお、以下の記事中に直接的な臓器の写真は含まれていません。
Xenogeneic cross-circulation for extracorporeal recovery of injured human lungs | Nature Medicine
https://doi.org/10.1038/s41591-020-0971-8
生物工学:損傷したヒト肺を、ブタとの交差循環によって回復させる | Nature Medicine | Nature Research
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13380
移植に使う肺の機能を維持するための既存の技術としては、ドナーの肺に酸素や栄養素を送り込み機能を助ける「体外肺潅流(EVLP)」が知られています。摘出した肺は6~8時間で移植を行い血流を再開させる必要がありますが、EVLPを用いると摘出してから移植を終えるまでの時間を伸ばすことができます。
コロンビア大学とヴァンダービルト大学は、臓器移植に利用可能な肺を数多く確保するため、過去8年間にわたって根本的に新たな方法を探ってきました。2019年、チームは損傷したブタの肺が、体外で別の生きたブタと接続する「交差循環」により回復したことを確認しました。
今回の論文は、ブタの肺ではなくヒトの肺も回復させられることを示したもの。用いられたのはEVLPを経ても移植には不適当とされた肺でしたが、免疫抑制剤を投与されたブタとの交差循環により肺は機能を回復しました。
以下、モザイク付きですが交差循環の経過を示した写真の色味でも、肺の回復がなんとなくわかります。
交差循環を行う前の肺は全体的に鮮やかさが消え、赤みがかった部分はやや黒ずんでいます。
交差循環開始から12時間で、全体的に赤みが強くなっています。
交差循環開始から24時間。しぼんでいた部分すら膨らんでいるようです。
以下のサイトでは、モザイクのかかっていない肺の回復の様子が見られます。
Severely Damaged Human Lungs Can Now Be Successfully Recovered | Columbia Engineering
https://engineering.columbia.edu/press-releases/gvn-donor-lungs-recovery
Damaged Human Lungs Can Be Repaired by Attaching Them to Pigs, Experiment Shows
https://www.sciencealert.com/a-damaged-human-lung-has-been-repaired-by-attaching-it-to-a-pig
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