結婚とお金による幸福の「賞味期限」は一体何年なのか?
これまでの研究により「結婚生活が長続きすると幸福度も長続きする」ことや、「裕福なほど健康で長生きできる」ことが分かっていることから、円満な結婚や潤沢な資産に恵まれた人は末長く幸せに暮らせるように思えます。しかし、16年間にわたり約1万4000人のオーストラリア人の人生を追った研究の分析結果から、実は「結婚やお金による幸福」はそれほど長くは続かないことが示されました。
Marriage and money help but don't lead to long-lasting happiness
https://theconversation.com/marriage-and-money-help-but-dont-lead-to-long-lasting-happiness-140431
シドニー工科大学で健康経済学や行動経済学を研究しているネイサン・ケトルウェル氏らの研究チームは、人生のさまざまな出来事と幸福の関係について調べるため、オーストラリアに住む全7682世帯、のべ1万3969人を対象とした大規模な社会調査プロジェクト「Household, Income and Labour Dynamics in Australia Survey(HILDA Survey/オーストラリアにおける家計、所得、労働力に関する調査)」からデータを取得して分析を行いました。
その結果が以下の図です、グラフは左から「結婚」「出産」「宝くじ当選や遺産相続など突発的に大金を得たこと」というライフイベントの前後で、幸福度(赤)と人生の満足度(青)がどう変化したのかを表しています。また、縦軸はグラフの悪化・好転を示し、横軸はライフイベント発生前の24カ月前~48カ月後の6年間です。このグラフを見ると、「結婚(左)」による幸福度や満足度は結婚から3カ月後をピークに急上昇するものの、36カ月後(3年後)には結婚の2年前とほぼ同じ水準に落ちていることが分かります。「大金の獲得(右)」は結婚より上下は穏やかですが、結婚と同様に2~3年後には幸福度や満足度がかなり落ち込んでいます。一方、「出産(中央)」は幸福度をマイナスにするものの、満足度は大幅に増加させるという、他の2つには見られない結果を示しました。
次の3つは、左から「引退」「妊娠」「昇進」です。「引退(左)」では、定年退職後1年間は幸福度や満足度が高まっていますが、その後も乱高下しつつ時間の経過とともに落ち着いています。「妊娠(中央)」も「出産」と同様の動きを見せました。妊娠や出産が幸福度を大きく下落させる要因として、研究チームは子育てに伴う睡眠不足が大きな要因となっている可能性が高いと指摘しています。また、「昇進(右)」を経験しても幸福度や満足度はほとんど変化せず、幸福度や満足度に与える影響は微々たるものでした。
「就職(左)」や「転居(中央)」も、昇進と同様に幸福度や満足度に大きな影響を与えていませんでした。また、「再婚(右)」は結婚とは逆に、再婚直後には幸福度と満足度が大きく落ち込んでいますが、再婚から2年後には元に戻りました。
これまではどちらかといえば前向きなライフイベントでしたが、研究チームは不幸な出来事の分析も行っています。以下は左から「家族との死別」「パートナーとの離婚もしくは長期にわたる別居」「破産など突発的に大金を失ったこと」です。いずれもライフイベント発生から1年間は大きく幸福度と満足度が下落していますが、その後2年から3年かけて徐々に持ち直している様子が分かります。
「大ケガや大病などの健康上のショック(左)」「暴力による肉体的な被害(中央)」「解雇(右)」や……
「家族や近親者の大ケガまたは大病(左)」「友人の死(中央)」「盗難の被害(右)」なども、程度の差はあれどライフイベント発生から2~3年で立ち直っています。
結婚や大きな収入など、プラスの出来事の影響が一時的なものに終わることについて、研究チームは「いい出来事があっても、ほとんどの人は元の幸福レベルに戻ることが分かりました。また、配偶者や家族との死別といった非常に悪い出来事も、同様に2~3年で幸福度が回復します。これは、人が痛みを抱えていないということではなく、不幸があっても再び幸せを感じることができるということを意味しています」と指摘しました。このように、大きな出来事により変動した幸福度が元に戻ることを、心理学用語で「ヘドニック・トレッドミル(快楽適応)」というとのことです。
また、今回の分析結果を踏まえて、研究チームは「今回の研究は、幸福を追い求めて肯定的な出来事にこだわることについての警告となるものです。いい出来事が私たちの幸福に及ぼす影響は一時的なものに過ぎない場合が多いからです。しかし、見方を変えれば、悪い出来事に打ちのめされても、その出来事から私たちをいやしてくれるものを大切にすることで、乗り越えられるということでもあります。大切なことは、人間関係や健康を維持し、そして経済的な損失を最小限できるようにすることです」と述べました。
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