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「サービス」から「プラットフォーム」へ進化する過程をデザインツール「Figma」への徹底的な分析から考えるとこうなる


「リリースしたサービスが成功するかどうか」は、ビジネスにおいて最も重要な関心事です。シリコンバレーの市場調査会社「greylock」に勤めるKevin Kwok氏は、「サービス」が「プラットフォーム」に成長していくまでの過程を、デザインツール「Figma」の例を元に分析しています。

Why Figma Wins - kwokchain
https://kwokchain.com/2020/06/19/why-figma-wins/

目次
◆第一段階の成長要因:クラウドと技術
◆第二段階の成長要因:職種を超えたサービスの広がりとセールス手法
◆第三段階の成長に必要なもの:コミュニティとプラグイン
◆プラットフォームの役割

Kwok氏によると、企業はみずからの事業を循環させる存在であり、成功するためには「次の循環」を見つけていく必要があるとのこと。ウェブ上で動作し、複数人でチャットをしながらデザインを作り上げることができるデザインツール「Figma」は、「次の循環」を見つけることに成功した主要な例であるとKwok氏は語っています。

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Figmaの成功を理解するためには、技術や市場洞察、ビジネス構造のみならず、コアビジネスと将来が見込める事業への資源配分から、成長の相乗効果を生むためのプラットフォーム構築まで理解する必要があるとKwok氏は指摘しています。

◆第一段階の成長要因:クラウドと技術

Figmaの成長の第一段階は「クラウド」と「技術」にあったとKwok氏は分析しています。


初期のFigmaがもたらした価値は「デザインを共同して行えるようにすること」であるとKwok氏。Figmaが登場する前は、各デザイナーがそれぞれ作成したファイルをクラウド上で共有していたのに対し、Figmaではクラウド上のファイルを直接編集できるようになりました。さらに、作業環境をデスクトップアプリではなくウェブ上に構築し、すべてをインターネット上で完結させることで、ユーザーが同期を意識せずに済むようになったとのこと。Kwok氏は「WordのファイルをDropbox上で共有するのと、Googleドキュメントで同時編集する」際の違いを同様の例として取り上げています。


作業環境をブラウザベースで構築したことによるメリットは他にもあります。従来、デザイナーとプロジェクトマネージャーが作業の進み具合を共有する場合、現時点でのファイルの送付やダウンロード、修正点を指摘したファイルの再送付などが必要でしたが、Figmaならリンクを共有するだけで最新のデザインの共有や修正が可能。


これまでバラバラのプラットフォームで共有されていた、画像やプロトタイプなどのデザインを構成する各要素が、Figmaによって同一プラットフォーム上で共有できるようになった点も見逃せないとのこと。


◆第二段階の成長要因:職種を超えたサービスの広がりとセールス手法

Figmaの成長の第二段階は「クロスサイドネットワーク効果」と「エンタープライズ向けのセールス」であるとのこと。


第一段階の成長を支えたFigmaの機能は、デザインを制作するプロセスにおいてデザイナーでない人々が関わる必要性を企業に広めたと同時に、製品やビジネスについての意思決定にデザイナーが参加する機会を提供したとKwok氏は指摘。これまでビジネスにおいて不透明になりがちだったデザインが透明化され、製品やエンジニアリング、ビジネスと関わり合うものであると認知されるようになったとのこと。Figmaはデザイナーのためのツールではなく、デザインに関わるチームのためのツール、というわけです。


Kwok氏は異なる職種をターゲットにしたFigmaについて、事業のスケールという点においても有利であると分析。Figmaの成長の初期においては、単一の職種における好循環にあたる「ダイレクトネットワーク効果」が成長エンジンでしたが、ダイレクトネットワーク効果だけでは成長に限界があります。Figmaはエンジニアやプロジェクトマネージャーなど、デザイナー以外の職種も巻き込んで「クロスサイドネットワーク効果」を起こしたことで、さらなる成長を遂げることができたとこのと。あるデザイナーがFigmaを使っていたら、その同僚のエンジニアもFigmaを使い始め、そのエンジニアがさらに別のデザイナーにFigmaを薦める、といった循環が生まれるというわけ。


Figmaのセールス手法に着目すると、その段階は2段階に分けられるとのこと。まずはサービスそのものを基盤として、個人に対するサービスの定着と拡大を狙い、サービスが根付き始めたら企業そのものへの営業を行うとKwok氏は指摘しています。しかし、こうした「製品主導のコンシューマー向けセールスモデル」から「販売主導のエンタープライズ向けセールスモデル」へと移行させていくセールスモデルは十分に確立されておらず、Figmaにおいても取り組むべき課題が残っているとのこと。


◆第三段階の成長に必要なもの:コミュニティとプラグイン

第二段階において、クロスサイドネットワーク効果と新しいセールスモデルにより成長を遂げ、SketchAdobe XDなどの競合サービスが登場する中で、Figmaの次なる挑戦は「価値の向上と企業を超えたサービスの広がり」によるエコシステムの拡大だとKwok氏は語っています。


Figmaの次なる成長段階では、企業内での広がりに限定される「ローカルネットワーク効果」のみならず、企業を超えた「グローバルネットワーク効果」を生み出すことが必要とのこと。Figmaはすでに「プラグイン」と「コミュニティ」を提供することにより、企業を超えたエコシステムを構築するための準備を始めているとKwok氏は語っています。


記事作成時点ではベータ版であるFigmaが立ち上げたコミュニティによって、これまでは画像などの成果物しか共有されてこなかったデザインが、UIキットや構成物も含めて共有できるようになるとのこと。ソフトウェアをソースコードとともに共有できるGitHubのように、デザインを構成する要素全体を共有できるようになるというわけ。コミュニティにより組織間のつながりが生まれるので、グローバルネットワーク効果を生むことができます。


コミュニティに続いてFigmaの成長を助けるのがプラグインです。プラグインはFigmaのコミュニティ内で誰でも利用できる形で公開されており、自分の作ったプラグインを公開することも可能。


プラグインの登場によって、Figmaの拡張性が向上するばかりでなく、インターネット上に公開された追加の機能を誰でも利用できるようになります。これにより、「ユーザー数の増加によって、すべてのユーザーのニーズに応えるのが難しくなる」という障壁を乗り越えることができるとKwok氏は指摘。「顧客のニーズ」と「企業の開発能力」の差を埋めるのがプラグインだと説明されています。


Kwok氏によると、企業向けのセールスやSaaSの構築における手法は比較的成熟していますが、プラットフォームの構築方法はまだ成熟していないとのこと。Kwok氏は「プラットフォーム構築を説明するには共通のボキャブラリーが足りない」と語っていますが、FigmaとSketchのプラグインシステムの違いから、プラットフォーム構築に必要な要素の説明を試みています。


Sketchのプラグインは、ドキュメントが整備されプラグインのカバー率も広いものの、ユーザーがクラウド上からプラグインをダウンロードし、インストールする作業が必要とのこと。また、プラグインの管理は分散化されており、多くのプラグインはGitHubにアップロードされている状態。プラグインに対する評価システムや承認プロセスは存在しません。そうしたSketchのプラグインシステムに対し、FigmaのプラグインシステムはFigmaのクラウドで管理され、クラウド上で検索からインストールまで完結するようになっています。


しかし、Figmaのようにプラグインの管理をブラウザ上で完結させる場合は、安全性やパフォーマンス、安定性が担保されていなければならないとのこと。この信頼と安定性こそが、強力なエコシステムの基盤であるとKwok氏は指摘しており、Figmaのブログでもプラグインシステム構築の困難さが語られています。また、FigmaはAppleのApp Storeに似た集権的な承認システムをプラグインのエコシステムに組み込んでおり、プラグインの公開にはFigmaのポリシーを満たす必要があります。こうした集権的な承認システムにより、Figmaは技術的な問題以外のアプローチでもプラグインの信頼性を確保しています。


なお、Kwok氏はSketchとFigmaのプラグインシステムの比較において、「Sketchに落ち度はない」とコメント。今日においてもプラグインがどれだけ野心的なものになるかは不透明とKwok氏。さらに、Sketchのプラグインに対する放任主義的な姿勢が、コミュニティの繁栄につながったこと、Figmaのような他の企業がプラグインの重要性や可能性に気づくきっかけになったことをKwok氏は認めています。しかし、Sketchのプラグインに対する姿勢はSketchそのものの可能性を阻害しており、Sketchが進めているプラグインの完全なクラウド化を「正しい道」であるとKwok氏は語っています。

◆プラットフォームの役割


プラットフォームが成長していくためには、経営方針も重要であるとKwok氏。Figmaはプラグインシステムにおいてマネタイズを認めてはいますが、プラグインはすべてのユーザーがアクセスできるようにしたいと考えているとのこと。こうしたビジネスとオープンソースコミュニティのバランスは重要であり、かつ正しい答えはないとのこと。

ソフトウェア開発などのエンジニアリングの進歩はめざましいですが、デザインもエンジニアリングと同じ方向に向かいつつあり、その中心に位置するのがFigmaであるとKwok氏は指摘。Figmaによって、デザインの進歩のスピードが押し上げられているというわけです。


しかし、Figmaの真の可能性は、プラットフォームへの移行を実現できるかどうかにあるとのこと。「どの企業が特定の分野で成功するかは、多くの要因によって決まります。しかし、成功した企業の影響力は非常に大きくなります。自然界の生態系を支える湿潤粘土のように、成功した企業はその分野全体の成長の仕方を定義する基盤となります。これは、Figmaのように、プラットフォーマーとしての役割を担う可能性のある企業にとって、大きなチャンスであり責任でもあります」とKwok氏は語っています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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