高機能マスクに使用されてウイルスを捕まえる不織布のフィルターはどのように作られているのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、世界各地でマスクの需要が高まっています。ドイツのトロイスドルフに本拠を置くReicofilは、高品質のマスクに欠かせない不織布のフィルターを生産する機械を開発・販売するメーカーです。Reicofilの開発する機械がどのようにウイルスを通さない不織布のフィルターを製造するのか、そしてこの不織布のフィルターがどのように微小なウイルスを捕まえるのかを、エンジニアたちが解説しています。
Meltblown procedure: Producing coronavirus mask filter fleece | Science| In-depth reporting on science and technology | DW | 18.05.2020
https://www.dw.com/en/meltblown-procedure-producing-coronavirus-mask-filter-fleece/a-53480709
医療従事者などが使用する高機能マスクは研磨材やほこり、エアロゾルやウイルスといったあらゆる種類の汚染物質を防がなければならず、フィルターとして使用される不織布にも高い性能が要求されます。こうした高機能マスクに使われるフィルターは、「メルトブローン製法」という特殊な製法で作られているそうで、Reicofilが開発する機械はメルトブローン製法を使って高性能なマスク用のフィルターを生産可能だとのこと。
Reicofilの研究施設には、不織布を製造する企業の製品開発を手助けするため、製造工程を実際に再現可能な研究設備が整っています。COVID-19のパンデミックが起きて世界的にマスクの需要が高まっている状況を受けて、Reicofilは研究用の設備を使ってマスクに使用するフィルターの製造を始めているそうです。
不織布の原料となるのは汎用樹脂のポリプロピレンであり、製造時はまず最初にポリプロピレンを液体状のハチミツのようになるまで融解します。次に液体状のポリプロピレンを小さなノズルに流し込んで、非常に細い糸状に成型するとのこと。
しかし、単に細いノズルを通して極細の糸状にしただけのポリプロピレンは、不織布のフィルターとして機能するには太すぎるそうです。そこでメルトブローン製法では、非常に高温の空気でポリプロピレンの糸をブローすることにより、さらに糸を細く成型しています。研究開発責任者のDetlef Frey氏は、「私たちが使用するポリプロピレンは摂氏160度の融点を持っており、糸に吹き付ける熱風は250度です」と述べています。
熱風は毎秒約300メートルほどの勢いでポリプロピレンの糸をブローするそうですが、この熱風を2方向から糸の周辺でぶつけることにより、狭い範囲でランダムな空気の渦が形成されるとのこと。この渦によってさらに糸にぶつかる空気の流れが速くなり、熱風によって解け出した糸がさらに細くなる仕組みとなっています。Frey氏は「熱風を当てて糸を細くすると同時に、糸の破損を防ぐ必要があります」と述べ、高い品質を保ちつつ不織布を作ることは困難でありつつも魅力的な工程だとコメント。
開発エンジニアのAlexander Klein氏は、「糸の切れ目や破損がなく、問題がない均一な不織布が得られるように設定を調整する必要があります。その結果、繊維の細さが均一な製品が得られます」と述べ、不織布の生産においては製造プロセスの制御が非常に重要になってくると指摘。Reicofilが開発する製造機械は製品の欠陥を光学的に検出するシステムを搭載しているほか、完成したフィルターの通気性も自動的に測定するセンサーを備えています。このように、ある程度の問題は自動的にチェックが行われますが、定期的にフィルターのサンプルを採取して通気性とフィルターとしての分離率を測定し、フィルターの分類が求める仕様を満たしているかどうかをチェックする必要があるとのこと。
Klein氏は、「テストを行うことで、プロセスのうち何かが機能していないことを示唆する変化を検出できます」と述べています。このように厳重なチェック体制が必要とされるのは、不織布の原料である融解したポリプロピレンが流動的で、粘着性をもっているからです。
Frey氏は「ポリプロピレンの糸の無秩序な動きは、フィルターのネットを形成する絡み合った網を作るのに役立ちます。フィルターのネットに存在する物理的な細孔のサイズは、約10マイクロメートルかそれより小さいくらいです」とコメント。熱風でブローすることにより、ポリプロピレンの糸は直径約0.5マイクロメートルほどの細さになるとのこと。この細さのポリプロピレンの糸がわずか7gあれば、地球を1周することができるそうです。
不織布のフィルターは非常に細かいものの、新型コロナウイルスの大きさは0.1~0.2マイクロメートルほどともいわれており、フィルターの穴よりもはるかに小さいことがわかっています。そのため、エンジニアらはフィルターの穴よりも小さいウイルスを捕えるため、さまざまな工夫を行っています。
「1つは慣性とブラウン運動の組み合わせによって引き起こされる拡散です。これによって粒子はフィルターを通り抜ける際に糸の表面に付着し、摩擦力や分子間力によって捕まえられます」とFrey氏はコメント。分子間に働く電磁気学的な力は非常に小さいものの、ウイルスのような小さな粒子を捕えるには十分だそうです。
また、新型コロナウイルスを含む一部のウイルスは脂溶性の膜(エンベロープ)に覆われており、親油性のポリプロピレンにくっつきやすい点も、マスクの有効性を高めているとのこと。これに加えてReicofilでは、完成した不織布をローラーの上で移動させると同時に高電圧電極を使って帯電させ、フィルターに静電気を帯びさせています。この静電気力もウイルスを捕えるために重要な役割を果たしているとFrey氏は述べました。
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