サイエンス

新型コロナウイルス感染症の患者は幻覚や錯覚に見舞われている可能性、入院の長期化や死亡リスクとの関係も


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や、2002年~2004年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)などの感染症例3000件以上を横断的に精査した研究結果から、「入院中のCOVID-19患者の4人に1人が、意識混濁や奇妙で脅迫的な思考、幻覚などに襲われるせん妄を経験する可能性がある」ことが判明しました。せん妄の症状は過去に発生したSARSなどでも見られた既知の症例ですが、こうした事例では入院期間の長期化や、死亡リスクが倍増する危険性があることも分かっているため、COVID-19においても注意を要すると専門家は指摘しています。

Psychiatric and neuropsychiatric presentations associated with severe coronavirus infections: a systematic review and meta-analysis with comparison to the COVID-19 pandemic - PIIS2215-0366(20)30203-0.pdf
(PDFファイル)https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanpsy/PIIS2215-0366(20)30203-0.pdf

Coronavirus infections may lead to delirium and potentially PTSD
https://medicalxpress.com/news/2020-05-coronavirus-infections-delirium-potentially-ptsd.html

Delirium, depression, anxiety, PTSD – the less discussed effects of COVID-19
https://theconversation.com/delirium-depression-anxiety-ptsd-the-less-discussed-effects-of-covid-19-138671

Delirium and PTSD symptoms may follow Covid-19 infection, study says - CNN
https://edition.cnn.com/2020/05/18/health/delirium-ptsd-coronavirus-wellness/index.html


ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの精神科医であるジョナサン・ロジャース氏らの研究チームは、新型コロナウイルスが精神にもたらす長期的な影響について調べるため、過去に報告されたコロナウイルスの感染症例の論文や研究報告72件をメタ分析しました。こうした文献の中には、COVID-19に加えてSARSやMERSといった過去のコロナウイルス感染症の症状例が合計3559件含まれていました。

この分析の結果、SARSやMERSで入院した人の約28%以上が集中力の低下、錯乱、気分の急激な変動などの症状を経験していたことが判明。また、平均約3年間にわたる追跡調査では、発症から数カ月が経過した後に15%の元患者がうつ病を患っていたほか、さらに15%の元患者が不安障害の症状を呈していました。

ロジャース氏は「特に印象的だったのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発生率が30%を超えていたことです。これは大きな数字です。また、感染症やその治療の経験以外の要因が含まれているというわけでもありません」と述べて、PTSDを抱えるコロナウイルス感染症患者が多かったことを強調しました。


ロジャーズ氏らによると、こうした症状はコロナウイルス感染症にかかったことがある患者が、入院中にせん妄に見舞われていたことを示唆しているとのこと。また、ロジャーズ氏は「我々が入手したCOVID-19についての初期の報告には、SARSやMERSのデータと同様の傾向が見受けられます」と述べて、COVID-19でも過去に発生したコロナウイルス感染症と同様のせん妄が発生している可能性を指摘しました。

「COVID-19の患者がせん妄に見舞われる可能性が高い」という今回の研究結果が問題視されているのは、単に患者が意識障害に苦しむからだけではありません。ロジャース氏は「せん妄の症状があるコロナウイルス感染症患者は、入院中に死亡する可能性が少なくとも2倍高くなります。さらに、入院中にせん妄を発症した患者は、他の患者よりも約1週間長く入院していることも分かっています。これは、新しい患者のためにベッドを解放することが困難になるということを意味しています」と述べています。

研究チームは、今回の研究には多くの制限があることを認めています。例えば、COVID-19の症例報告は病院で治療を受けた重症患者のものしかないため、軽症もしくは無症状の患者は考慮できていません。また、COVID-19は2019年末に発見されてからまだ日が浅いため、COVID-19が精神に与える長期的なデータについての質が高い研究結果も不足しているとのこと。


論文の共著者であるキングス・カレッジ・ロンドンの精神科医エドワード・チェスニー氏は「入院中の患者が、映像通信などを使用して愛する人とコミュニケーションできるように取り計らうことで、患者の孤立を和らげることができるかもしれません」とコメントしました。

また、ロジャース氏は「幸いなことに、COVID-19にかかった人の大半は精神疾患の後遺症に悩まされることはないと予測されます。しかし、そうでない人には、精神科医の助けや職場復帰に向けたサポートが必要です」と述べて、COVID-19から回復した人への精神的なケアが可能な医療体制の構築が求められているとの認識を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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