サイエンス

熱力学と量子論を結びつける学問分野「量子スチームパンク」とは?


原子力発電がウランの核分裂でお湯を沸かして発電しているように、最先端のテクノロジーも古代の理論・技術の延長線に存在します。ハーバード大学で理論物理学を研究するニコル・ユンガー・ハルパーン氏が、19世紀の産業革命のさなかに生まれた熱力学と21世紀の量子論を結びつける学問分野「量子スチームパンク」について解説しています。

Quantum Steampunk: 19th-Century Science Meets Technology of Today - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/quantum-steampunk-19th-century-science-meets-technology-of-today/

スチームパンク」は、イギリスのヴィクトリア朝やエドワード朝の雰囲気をベースに、蒸気機関が広く定着した世界観を持つ作品を指しており、「ハウルの動く城」「ワイルド・ワイルド・ウエスト」「FINAL FANTASY VI」などがスチームパンクの代表例として知られています。


レンガ造りの街並みの中で発展した蒸気機関が描かれるスチームパンクは「過去と未来の融合」だといえます。ハルパーン氏が「量子スチームパンク」と呼んで研究しているのは、19世紀の熱力学と現代の量子論という過去と未来の融合を目指す学問です。

熱力学は、蒸気機関という実用的な物体から始まった学問分野で、現代では温度・圧力・体積・エネルギーなどの諸条件から蒸気などの多粒子系の性質を巨視的に扱う分野となっています。ハルパーン氏が熱力学と量子論の2つを結びつけて考えようとしているのは、この2つが共有している点が多いというのが理由。共通点の代表例が「エントロピー」です。エントロピーは熱力学では粒子などの「不可逆性」を示す指標として使われますが、量子統計力学の分野でも量子に関する不確実性を示す指標として用いられています。

ハルパーン氏が量子スチームパンク分野の目標として掲げているのが、「旧来の熱力学の更新」です。ハルパーン氏は、小規模の量子系におけるエントロピー関数や量子リソース理論ゆらぎの定理などの量子論から旧来の熱力学の諸法則を更新できると論じています。

ハルパーン氏が現在行っているのが、「量子エンジン」と呼ばれる動力機関に関する理論研究です。車両などに搭載されているガソリンエンジンは、外部の空気を吸入してガソリンと混合し、この混合気体を圧縮。そして圧縮した混合気体を燃焼・膨張させ、排気するという、「吸入」「圧縮」「燃焼・膨張」「排気」の4工程を繰り返して、熱力学の原理に基づいて熱エネルギーを運動エネルギーに変換しています。


量子エンジンはガソリンエンジンの根底にある熱力学の原理を量子論に置き換えたシステムです。量子エンジンは、レーザーによって粒子を熱平衡相と多体局在相という2つの相の間で相転移を繰り返すことによって、外部環境に熱エネルギーを放出させるとのこと。


ハルパーン氏は近年でも熱力学をベースにした分子スイッチ、太陽光発電機、放熱トランジスタなどの技術が登場していることを挙げて、「熱力学と量子論を組み合わせた学問分野が新たな発明を生み出すはず」と主張。量子スチームパンク内の理論を統合して既存の定義や結果を見つめ直し新たなツールを開発することで、この学問分野を前進させられると語っています。

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in サイエンス, Posted by log1k_iy

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