生き物

植物自身が持つ物質を利用して「暗闇で光り輝く植物」が遺伝子組み換え技術で作られる


生物発光とは、生物が化学的エネルギーを光エネルギーに変換する化学反応の結果として発光する現象であり、バクテリアや昆虫、魚類などで見られます。ロシアやオーストリアの研究チームは、この生物発光のシステムを遺伝子組み換え技術で植物に組み込んで、「暗闇で光り輝く植物」を作り出しました。

Plants with genetically encoded autoluminescence | Nature Biotechnology
https://www.nature.com/articles/s41587-020-0500-9

Scientists Engineer Gorgeous Glowing Plants That Shine Bright Their Entire Life Cycle
https://www.sciencealert.com/gorgeously-glowing-plants-shine-bright-throughout-their-life-cycle

生物発光は外部の光がない条件下で自らのエネルギーによって光を放つ現象であり、ヒカリゴケヒカリモのように、外部から入ってくるわずかな光を反射して光り輝くものは生物発光に含まれません。以前から遺伝子組み換え技術によって植物を発光させる試みは行われてきましたが、研究チームは、外部から発光を維持するための化学物質を投与することなく、さらにこれまでに開発された発光植物よりも明るく長時間発光する植物を作り出しました。

実際に暗闇の中で発光する植物の様子は、以下のムービーで見ることが可能です。

Timelapse video of incredible glowing plants growing. - YouTube


暗闇の中に幻想的に光っているのが今回開発された植物です。光の明暗によって葉脈の形なども見ることが可能。


植物の先端部分がより明るいそうで、花は特に明るく輝いています。


以前の研究では生物発光するバクテリアなどのDNAを使って遺伝子操作が行われていたそうですが、バクテリアの遺伝子は植物の色素体を標的にして自己発光を操作できるものの、技術的に扱いにくい上に十分な光を生み出すことができませんでした。

そこで今回はバクテリアではなく、生物発光する真菌のDNAを用いて遺伝子操作を行ったとのこと。今回の研究チームとほぼ同じメンバーが発表した2018年の研究では、真菌の発光にコーヒー酸という化学物質が関与していることがわかっています。

生物発光する真菌の内部では、コーヒー酸から生物発光の源であるルシフェリンという物質を生合成するため、合計で4つの酵素が作用しています。これら4つの酵素は、1つ目と2つ目の酵素がコーヒー酸をルシフェリンに変換し、3つ目の酵素がルシフェリンを酸化して光子を生成し、4つ目の酵素が残った分子を再びコーヒー酸に変換するという役割を持っています。

重要なのは、コーヒー酸が植物の細胞壁に剛性と強度をもたらすリグニンの生合成に重要な中間体であり、全ての植物に含まれているという点です。研究チームは遺伝子操作によって、植物中のコーヒー酸の一部をルシフェリンの生合成に割り当て、植物を発光させることができるのではないかと考えました。そこで、生物発光する4つの真菌の遺伝子をつなぎ合わせて植物のタバコに組み込んで栽培を行った結果、苗の段階から成熟するまで発光し続けるタバコが誕生したと研究チームは報告しています。


バクテリアの生物発光遺伝子を組み込んだ植物では、植物に毒性が表れることもあったそうですが、真菌のDNAを使った遺伝子操作が行われたタバコには、これといって毒性などの問題点は見られなかったとのこと。「遺伝子組み換えタバコでは背丈の中央値が12%高くなったことを除き、全体的な表現型・クロロフィルカロテノイドの含有量・開花時期・種子の発芽などは同じ温室で栽培されたほかのタバコと変わりませんでした」と研究チームは主張しています。

研究チームによると、新たな実験で作られたタバコは若い部分が最も明るく輝いており、1分当たり10億個もの光子を作り出しているそうです。これは生物発光するように遺伝子を組み換えられた従来の植物と比較して約10倍もの明るさで、人間の肉眼でもハッキリと光を見ることができるとのこと。

また、過去には植物の葉にナノ粒子を浸透させる植物ナノバイオニクスという技術を用いて、毎秒1兆個もの光子を放出させることにマサチューセッツ工科大学の研究チームが成功しています。しかし、この手法では外部から発光に必要な化学物質を与える必要があるほか、光は3.5時間しか持続しなかったとのことで、成長過程の大部分で発光を続けた今回の研究とはかなりの違いがあります。


将来的には、屋外に発光する植物を植えることで街灯への依存を減らすことも考えられますが、植物が外部環境にどのように反応するのかを確かめる上でも、自律的に発光する植物は有用だと研究チームは指摘。たとえば今回作られたタバコの近くにバナナの皮を置いた場合、皮から放出されるエチレンに反応してタバコはより明るく輝いたそうで、光を観察することで植物の反応を検出できるとのこと。

また、発光は内部の代謝プロセスからも影響を受けるそうで、通常は外部から観察できない植物内部の状態を観察する上でも、生物発光する植物は興味深い方法を提供するかもしれないと研究チームは主張しました。「ルシフェリンやほかの物質を外部から与える必要がないため、植物の自律的な発光能力は土壌で育った植物を使った実験に役立つはずです」と研究チームはコメント。今後、ツルニチニチソウペチュニア、バラなどのきれいな花を咲かせる植物でも、同様に発光させられるかどうかを試していく予定だそうです。

by duncan_idaho_2007

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1h_ik

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