Googleが量子データに対応した機械学習ライブラリ「TensorFlow Quantum」を公開

Googleがウォータールー大学、フォルクスワーゲン、機密研究機関「X」と共同で、量子機械学習用のライブラリ「TensorFlow Quantum(TFQ)」を公開しました。TFQは、量子コンピューティングと機械学習の研究コミュニティを結びつけ、量子の構造をモデル化するためのツールです。

[2003.02989] TensorFlow Quantum: A Software Framework for Quantum Machine Learning
https://arxiv.org/abs/2003.02989

Google AI Blog: Announcing TensorFlow Quantum: An Open Source Library for Quantum Machine Learning
https://ai.googleblog.com/2020/03/announcing-tensorflow-quantum-open.html

TensorFlow Quantum
https://www.tensorflow.org/quantum

TFQは、量子のノイズが存在する量子プロセッサ「NISQ」向けにGoogleが開発したフレームワーク「Cirq」を、既存のTensorFlowライブラリに統合したもの。既存のTensorFlow APIと互換性をもつ量子コンピューティングを実現しています。

量子機械学習のモデルを理解するためには、「量子データ」と「量子古典ハイブリッドモデル」をまず理解する必要があるとのこと。「量子コンピューター」や「量子データ」については、下記の記事で詳しく解説されています。

専門家は知識も経験も違う人々に対し「量子コンピューター」をどのように説明するのか？ - GIGAZINE

量子データは、量子が重なり合ったり絡み合ったりしている「量子もつれ」を持ち、NISQによって生成されるデータです。量子データにはノイズが含まれていますが、量子機械学習をノイズの多い量子データに適用すると、古典的な形式の情報を最大限に抽出することができるとのこと。TFQはこの性質に着目したライブラリで、量子データをひもといて一般化するための基礎を提供します。

NISQはノイズが多く規模が小さいため、古典的なプロセッサと合わせて使用することで効率的な計算が可能となりますが、こうした計算を可能にするのが量子古典ハイブリッドモデルです。TFQは量子ビットや量子ゲート、量子回路など、これまでの量子コンピューティングで利用されている一般的な構造に加え、Cirqに含まれているNISQ用のコンパイラやスケジューラを搭載することで、効率的な量子古典ハイブリッドモデルを実現しているとのこと。

TFQに量子データを処理させると、まずは量子モデルによるデータの評価が行われます。ここでは量子もつれを持っている量子データをひもとき、その重なり合いの中に隠された古典的な形式の情報を抽出します。量子の状態を表した古典的な形式のランダムな変数はサンプリングもしくは平均化され、ニューラルネットワークが古典的なコンピューティングによってデータを処理。その後、目的関数を最適化するよう各変数がアップデートされます。

TFQの特徴は、多数の量子回路で並列計算でき、比較的規模の大きい量子回路をマルチコアプロセッサでシミュレートできる点。特に後者を実現するために、Intel製のマルチコアプロセッサに最適化された高性能な量子回路シミュレーターである「qsim」が採用されているとのことこれにより、GCPのN2ノードでvCPUを80コアに設定した場合、60分の間に深さ20の20個の量子回路で、100万回のシミュレーションができたと報告されています。

リリース段階では、TFQは従来から存在する量子回路シミュレーターを用いていますが、将来的にはGoogleが開発した量子プロセッサ「Sycamore」など、実際の量子プロセッサにも対応するとコメントされています。

なお、TFQはオープンソースのソフトウェアとしてGitHub上に公開されています。

GitHub - tensorflow/quantum: Hybrid Quantum-Classical Machine Learning in TensorFlow
https://github.com/tensorflow/quantum