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専門家は知識も経験も違う人々に対し「量子コンピューター」をどのように説明するのか?


量子力学的な重ね合わせを用いて超高速な計算を可能にする「量子コンピューター」は、従来のコンピューターを大幅に超える計算速度を実現するものとして注目を集めています。そんな量子コンピューターについて、子ども・10代の若者・大学生・大学院生・研究者というまったく違う背景を持った5人の人々に対し、専門家がそれぞれのレベルに合わせて解説するムービーがYouTubeで公開されています。

Quantum Computing Expert Explains One Concept in 5 Levels of Difficulty | WIRED


今回のムービーで量子コンピューターについての説明を行うのは、IBMの量子コンピューター開発部門でシニアマネージャーを務めるTalia Gershonさん。


最初に解説する相手は「子ども」です。


Gershonさんの前に登場したのは、8歳のGenesis Brownさん。Brownさんは「これは何?」と背後の量子コンピューターを指さします。


Gershonさんが「私たちはこれを『シャンデリア』と冗談で呼ぶこともあるけど、これの名前は『量子コンピューター』というのよ」と答えると……


「量子……コン……?」とつぶやいて意味がわからないという表情を作るBrownさん。


「これはものすごいコンピューターで、これまでのコンピューターとは違う方法で計算を行うのよ」とGershonさんが続けるものの、Brownさんは相変わらず微妙な表情を浮かべていました。


すると、「これは何でしょう?」とGershonさんが「A」と書かれた1枚の紙を取り出します。


「A?」とBrownさんが答えると、「その通り!」とGershonさんは答えます。


「コンピューターは『A』のことを、こんな風に考えているの」と言ったGershonさんは、0と1が繰り返された紙を見せます。


「0……1……」とつぶやいて笑うBrownさん。


「普通のコンピューターはたとえばこのコインの裏表みたいに、0と1をそれぞれ1つずつ表しているの。でも、量子コンピューターはコインが回っているから、0と1を一緒に表すことができるのよ」とGershonさんは説明します。


やがてBrownさんは「ものすごく難しい宿題ができるってこと?」と尋ねました。「そうそう!」とGershonさんは答え、「何かを計算する宿題にはものすごく便利ね。量子コンピューターは人々を助けるために、新しい薬を作る手助けもしてくれるわ」と量子コンピューターの可能性について語りました。


Gershonさんが2人目に解説するのはティーンエイジャー。


15歳のIesse Perlmutterさんは、「あなたは普段、どんなコンピューターを使っていますか?」というGershonさんの質問に「iPhoneです。SNSとか宿題の調べ物とか、ほぼ常にiPhoneを使っています」と答えました。


「私たちのチームは、これまでとは違う新しいコンピューターを開発しています。後ろのこれは何かわかりますか?」とGershonさんが尋ねますが……


「全然わかりません!」と笑いながら答えるPerlmutterさん。


「これは量子コンピューターといいます」とGershonさんに説明されても、「聞いたことないです」とPerlmutterさんは答え、「量子という言葉を聞いたことは?」という質問にも「全然ありません」とのこと。


「私たちは量子という物理学の一分野を応用して、新しいコンピューターを作っています」と言ったGershonさんは、1枚の特大1セントコインを取り出しました。


「コインには表と裏があります。手のひらにのせたり机に置いたりしている限り、『このコインは表』『このコインは裏』と言えますね?」と説明すると、Perlmutterさんは「はい」と答えます。「じゃあ、コインを回したらどうなりますか?」という質問には、「ん?」と疑問符が頭の中を巡っている様子のPerlmutterさん。


実際にコインを回してみせるGershonさん。「このコインは表?それとも裏?」と尋ねるGershonさんに、Perlmutterさんは「表?」と自信なさげに答えます。


Gershonさんはコインの回転をパタンと止め、「これは『回っている』と言えるかしら?」ともう一度尋ねます。すると、Perlmutterさんはハッと気づいた様子で、「ああ、違います。どっちが表か裏かわかりません」と答えました。


「私たちはこの『表か裏かどっちかわからない』という量子の特性を生かして、量子コンピューターという新しいコンピューターを作っています」と説明するGershonさん。


「実は量子には『量子もつれ』という現象が起きることがわかっています」と話ながら、Gershonさんはもう1枚のコインをPerlmutterさんに渡しました。


「私たち2人が離れたところでコインを回していても、あなたのコインが『表』だと確定した場合、私のコインも『表』だと確定する関係。それを量子もつれといいます」とGershonさんが説明すると……


「そんなことがあるの!?」とPerlmutterさんは驚きました。


量子コンピューターはとても冷たい状態になっていて、冷蔵庫みたいなものだという解説をGershonさんが付け加えると、Perlmutterさんは「友達に今日のことを説明したら、『量子って何!?』って聞かれると思います」と笑いました。


3人目に登場するのは、現役の大学生です。


コンピューターサイエンスを専攻するAmanda Liuさんに、Gershonさんは背後の量子コンピューターを指して「これは何だと思いますか?」と尋ねました。


「なにかの実験機?回路?」と答えたLiuさんに「いい線をついてます。これは量子コンピューターです」とGershonさんが言うと、Liuさんは「ああ」と納得した様子でうなずきました。


コンピューターサイエンスを学んでいるLiuさんは機械学習を中心に学んでおり、量子コンピューターは専門ではないものの、「量子コンピューターは量子の重ねあわせを利用した高性能なコンピューター」という理解はしている様子。


「では、『量子もつれ』という言葉は知っていますか?」とGershonさんに尋ねられると、「それは聞いたことがありませんでした」と答えるLiuさん。


「量子もつれとは、2つの量子が互いに干渉している状態のことです。干渉という言葉はわかりますか?」とGershonさんが尋ねると、「あまり知らないです」とLiuさんは答えました。


「それじゃあ、ノイズキャンセリングがどのように機能するのか、知っていますか?」とGershonさんが聞くと、Liuさんは「雑音の周波数に、それを打ち消す周波数の音をぶつけて打ち消すことでしたっけ」と説明。「その通り!それが干渉です」とGershonさんは嬉しそうに答えました。


「量子の重ね合わせ、量子もつれなどを利用して私たちは量子コンピューターを作り上げています」とGershonさんは説明しました。


すると、Liuさんから「私は主にプログラミングについて勉強していますが、量子コンピューターはプログラミングの現場に寄与しますか?」と質問が出ます。


「いい質問です!古典的コンピューターでは非常に難しい計算であっても、それを量子コンピューターで行うことによって解決できる可能性は十分にあります。あなたの勉強している機械学習などは、量子コンピューターとの親和性が高いかもしれません」とGershonさんは答えました。


「量子コンピューターが私のノートPCに搭載されたり、ドミトリーの部屋に来るのは何年後になりますか?5年後?10年後?」というLiuさんの質問には……


「ノートPCに搭載されたり、ドミトリーの部屋に来るという時代はかなり先になりそうですが、研究室にある量子コンピューターにクラウドからアクセス可能な時代はすぐそこまで来ています」とGershonさんは答えました。


次に登場するのは大学院生。


大学院生のGreg Kocherさんは、機械学習関連の研究を行っているとのこと。


Gershonさんも機械学習には興味を持っているようで、「機械学習の限界についてどう思っていますか?」という質問や、「私の同僚にも機械学習のニューラルネットワークについて研究している人がいます」という会話を交わします。


「量子コンピューターは機械学習の分野とも密接に関わっていると、私は思っています」とGershonさんが言うと、Kocherさんも「私も量子コンピューターについては関心を持っています」と同調しました。


「しかし、量子コンピューターについての理論を正確に把握していないため、情報のエンコードなどに疑問があります」とKocherさんが質問。


Gershonさんは背後の量子コンピューターのモデルを振り返り……


「このチップに量子情報が格納されています」と説明。量子の状態を観測するには、マイクロ波パルスを利用しているとのこと。


説明を受けるKocherさんは「なるほど」と相づちを挟みつつ、Gershonさんの話に聞き入ります。


「どのようなアルゴリスムで動作するのですか?」という専門的な質問もKocherさんはぶつけてきます。Gershonさんは「『ショアのアルゴリズム』や『グローバーのアルゴリズム』といった量子コンピューターのアルゴリズムを用います」と回答。今後も量子コンピューターを運用するアルゴリズムについて、研究が必要だとの立場を示しました。


最後に登場するのは、現役の研究者。


Steven Girvinさんは、イェール大学の物理学教授です。


理論物理学者であるGirvinさんは、超伝導体や磁力についての研究に加え、近年は量子光学についても研究を行っているとのこと。


専門の教授を前にしたGershonさんは、「量子コンピューターについてどう思いますか?」と逆質問。


量子コンピューターには避けられない「ノイズ」が発生し、計算結果を狂わせることが知られています。それを避けるために、量子計算における間違いを訂正して正しい計算結果をもたらすフォールトトレラント量子計算の手法が必要であり、Girvinさんはその研究を行っていると説明しました。


従来のコンピューターと比べると量子コンピューターの信頼性は下がってしまいますが、Girvinさんは「完璧な」量子コンピューターの計算結果をもたらせるようにしたいと語ります。


量子コンピューターのアキレス腱とも言える量子の状態は、周囲からの影響を非常に受けやすいため、安定した状態を保てるようにすることが必要だとのこと。


「非常にフラストレーションのたまる作業ですが、辛抱強く研究していかなくてはなりません」と語るGirvinさん。


Gershonさんは「世間では5年以内に量子コンピューターが気象問題を解決する、ガンを撲滅するなんていうウワサがささやかれていたりします」と笑いながら話すと……


Girvinさんも笑って「量子コンピューターの分野では大きな進歩があることは確かでしょう。でも、そういった大きな成果をもたらすには5年では短すぎますね」と答えました。


「人々は量子コンピューターをどのように使うと思いますか?」というGershonさんの質問には、「数十年後のことは全く予想ができません。30年前からすれば、iPhoneだって魔法のようなものですからね」とGirvinさんは笑いました。


知識も立場も違う人々に対して量子コンピューターの説明をすることは、Gershonさん自身にとっても非常に興味深い体験だったようです。

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in ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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