都市の安全を作り出すために必要な「治安」とは別のあるポイントとは?
一般的に「都市の安全」は治安のよさや犯罪率の低下という観点から対策が取られます。しかし、実際のところ「安全性」には主観的な側面があり、全ての人にとって安全な場所を作るには、「誰がその場所を使うのか」「その場所から排除されているのは誰か」というところから考える必要があると、アイルランド国立大学コーク校のクレア・エドワーズ氏が指摘しています。
TOWARDSSAFE(R)SPACE
https://www.ucc.ie/en/media/research/iss21/TowardsSafer(r)Space.pdf
The experiences of people with disabilities show we need a new understanding of urban safety
https://theconversation.com/the-experiences-of-people-with-disabilities-show-we-need-a-new-understanding-of-urban-safety-130150
エドワーズ氏は過去2年間にわたって視覚・聴覚・可動性といった点に障がいを持つ人々が都会の安全性をどのように感じているのかや、安全性が人々に与えるインパクトを調査してきました。調査の結果、安全性は非常に流動的な概念であり、都市計画者の考える「安全」は他の誰かにとっての「安全」でない可能性があることに思い至りました。このことからエドワーズ氏は、障がい者の声や経験を都市計画に組み入れることは非常に重要だと指摘しています。
多くの都市計画者は、都市の安全性を犯罪予防という側面から考えます。町から犯罪を減らすことが念頭に置かれているため、都市計画で重視されるのは警察官の視認性や、照明や監視カメラの多さなどになるとのこと。
もちろん物理的な安全性は重要ですが、上記のような都市計画は主に公共性に焦点が当てられるため、人々が暮らす場所が犠牲になることが少なくないという問題があります。また、「数字に基づくその場所の犯罪統計」と「人々が現実に感じている恐怖や安心感」に不一致が起こり、都市計画を立てる側と実際に暮らす側とで「安全かどうか」の捉え方が異なるという状況も起こります。
エドワーズ氏がアイルランドの3つの都市で調査を行ったところ、障がいを持つ人々は公共交通機関やバー、公共スペース、ショッピングセンターなど、実にさまざまな場所を「安全ではない」と判断し避けていたことが判明しました。実際の安全措置ではなく、恐怖や「安全ではない」という思いにより、障がいを持つ人々の生活は制限されていたのです。
障がいを持つ人々に不安や恐怖を与えているのは、知らない人や信頼していない人の存在、人混み、あるいは建物へアクセスできないことなどだとエドワーズ氏。また時には「人がいないこと」が「安全ではない」と判断する要素となることもあり、土地柄や住宅デザイン、家族の不在などによって自宅が「安全ではない場所」となるケースも存在したそうです。
つまり重要なのは、1つの場所でも、利用者の恐れや安心感によって「安全」にも「危険」にもなり得るという事実を理解することです。誰かにとっての「危険な場所」も、別の誰かにとっては「避難所」となり得ます。
例えば視覚障がいのある男性は、他の人が安全だと感じる可能性がある場所に恐怖を感じると述べました。男性は日中、都会の道路を横切る時に、若者グループが男性に対して叫んだりはやし立てたりすることで集中が削がれたと語っています。
一方で、インタビューからわかった「障がいを持っている人が安全だと感じる場所」には、「使い慣れた移動ルート」「1日の特定の時間帯」「歓迎されていると強く感じる場所」といった要素が含まれていました。障がいを持つ人々が安心を感じられたお店やレストランは、スタッフが彼らを知っていたり、彼らのニーズを満たそうと努力している場所だったとのこと。また、誰かが一緒にいるとき、あるいはスマートフォンといった特定のテクノロジーを利用しているか否かも関係してきます。障がいを持つ人に敵意が向けられている場合は、抑止力としてのボディカメラも効果がありました。
車いすのスロープを建物に設置したり、より明るい照明を設置することで、より都市は安全にできるかもしれませんが、「障がいを持つ人を地域や場所から締め出そうとする雰囲気」という問題の解決に取り掛かることもまた、都市の安全を作り出すためには同じくらい重要です。スコットランドの「I Am Me」という慈善団体は、障がい者に対する差別的な態度を解決すべく学校で取り組みを行うとともに、地域の企業やお店に対して、このような人々が外出先で危機を感じた時に安全な場所を提供するよう呼びかけています。
都市の安全計画では、技術的な問題を解決することも大切ですが、社会における人間問題の解決に取り組むことも重要です。誰もが都市に住む権利を持っているという前提のみによって、より包括的で公正かつ安全な社会を創造できるとエドワーズ氏は述べました。
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