サイエンス

「子どものうち1人は僧侶になって生涯独身で暮らす」という慣習がもたらす生殖上のメリットとは?


生殖行動は生物の進化の中心にある営みですが、世界中のさまざまな宗教団体では「宗教者が独身であること」が義務づけられています。生物の本能に矛盾しているようにも見える宗教における独身主義について、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームがチベット仏教の僧侶およびその家族を対象にした研究で、「子どものうち1人を寺院に送って生涯独身の僧侶にする」という慣習がもたらすメリットが明らかになりました。

Religious celibacy brings inclusive fitness benefits | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.0965

Celibacy: its surprising evolutionary advantages – new research
https://theconversation.com/celibacy-its-surprising-evolutionary-advantages-new-research-184967

近年まで、チベット人の一部では「幼い息子のうち1人を地元の寺院に送り、生涯独身の僧侶にする」という慣習が一般的でした。このため、チベットの一部地域では長年にわたり、「生まれてきた男の子の7人に1人が独身の僧侶になる」という状態が維持されてきたとのこと。

この慣習について調査するため、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは中国の蘭州大学の研究者と共同で、甘粛省チベット高原東部に位置する21の村で、チベット人530世帯を対象にインタビューを実施。研究チームは各家庭の系図を再構築し、家族の経済状況や歴史、家族のうち誰が僧侶だったのかを調べました。これらの村に住むチベット人はヤクやヤギの群れを育てたり、小さな土地を耕作したりして暮らしており、財産はコミュニティ内の男性に受け継がれてきたそうです。

インタビューと分析の結果、兄弟に僧侶を持つ男性はより裕福で、より多くのヤクを所有していることが判明。一方、兄弟に僧侶がいる姉妹にはほとんどメリットがないこともわかりました。この結果について研究チームは、「おそらく兄弟が親の財産・土地・家畜を巡って競争しているからでしょう。僧侶は財産を所有できないので、両親が息子のうち1人を寺院に送ることで、兄弟間の対立に終止符を打ったのです」と述べています。

さらに今回の調査では、僧侶の兄弟を持つ男性はより多くの子どもを持っており、妻がより早い年齢で子どもを持つ傾向があることもわかりました。つまり、両親にとっては息子のうち1人を僧侶にすることで子どもたちの争いを減らし、より多くの孫を持つことにつながるため、多くの生殖上の利益と一致すると研究チームは報告しました。


研究チームは、独身主義が自然選択の結果として進化することを示すため、「僧侶になることを自分自身で決定するモデル」と「僧侶になることが親に決定されるモデル」を検討しました。まず、僧侶になることを自分自身で決める場合、本人は独身のまま生涯を終えるため遺伝的適応性が促進されず、独身主義が生まれることはありません。

しかし、僧侶になることを決めるのが親である場合、他の息子がより裕福になって結婚市場での競争力が強まり、より多くの孫を得られるというメリットが生じます。研究チームは、「このモデルでは独身主義がはるかに一般的になるのは、それを決めるのが両親である場合のみだと示されています」と述べています。

今回の研究はチベットの僧侶を対象にしたものでしたが、同様の独身主義モデルを別の文化的文脈に適応することで、その他の宗教における独身主義のメリットを見いだせる可能性があります。たとえば、キリスト教では女性が修道院に入って聖職者となる慣習がありますが、これは女性の相続権が強かったヨーロッパの一部地域などでより一般的な可能性があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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