「トイレの便座にセンサーを取り付けて心臓病の兆候を監視する」ことにどんなメリットがあるのか?
医療の発達や出生率の減少に伴って高齢化社会が加速している現代では、心臓に持病を抱えたまま暮らす人が増えています。心臓に持病を抱えた人にとって重要な心臓のモニタリングを、「トイレの便座に取り付けたセンサー」で行うという方法が注目を集めています。
Could a toilet seat help prevent hospital readmissions?
https://theconversation.com/could-a-toilet-seat-help-prevent-hospital-readmissions-122338
今後40年間で65歳以上の人口が2倍になると予測されているアメリカでは、高齢者の80%近くが何らかの心臓病にかかっているといわれています。医学の進歩に伴って、多少の心臓病になっても生き続けられるようになった結果、心筋が衰弱して十分な血液を送ることが難しくなるうっ血性心不全を抱えたまま暮らす人が増えているとのこと。
アメリカでは650万人もの人々がうっ血性心不全の治療を行っており、年間で350億ドル(約3兆9000億円)もの治療費が使われています。うっ血性心不全患者では治療費の80%ほどが入院によるものだそうですが、うっ血性心不全と診断されて入院した患者のうち、退院してから90日以内に再入院してしまう割合は50%近いそうです。
うっ血性心不全患者の再入院率が高い理由として、退院後の医療機関における診療が断続的になってしまった結果、うっ血性心不全が悪化する兆候を見逃してしまうことが考えられます。また、患者が処方された薬を適切に服用しなかったり、自分自身で血圧などの状態を監視することを怠ったりすることも、心不全の再発を引き起こします。医師は患者に対して血圧などの定期的なモニタリングを推奨していますが、実際にうっ血性心不全患者の中で定期的なモニタリングを行っているのは、全体の10%未満に過ぎません。
うっ血性心不全の危険性をモニタリングするために、医師と患者は血圧計や体重計、携帯型の心電図モニターを使用しており、退院後は患者が自分自身で健康状態をモニタリングする必要があります。ところが、ほとんどの患者は退院後に一連のデバイスを継続して使い続けていないとの研究結果が報告されており、結果として多くの患者が再入院する結果になっているとのこと。
より簡単にうっ血性心不全患者の状態をモニタリングする新技術として唯一アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けているのが、肺動脈にインプラントを埋め込んで血圧を測定する「CardioMEMS」です。臨床試験ではCardioMEMSがうっ血性心不全で入院する患者数を37%削減する効果が認められ、インプラントを埋め込んだ後の1年間にかかる医療費が平均で1万3190ドル(約125万円)削減されるとの(PDFファイル)研究結果もあります。
CardioMEMSをはじめとするモニタリング用デバイスには大きな期待が寄せられていますが、その一方でインプラントなどが心臓病患者に与える負担についての懸念もあります。また、装着可能なウェアラブルデバイスにしても、結局は着用者が積極的に自分の状況をモニタリングする意思を持たなくてはならず、途中でモニタリングをやめてしまう可能性があるとのこと。
そこで、ロチェスター工科大学の研究者であるNicholas Conn氏とBorkholder Biomedical氏は、より簡単なモニタリングの方法として、「トイレの便座にセンサーを取り付けて心臓病のリスクをモニタリングする」という手法を考案しました。たとえ積極的なモニタリングを面倒に思う患者でも、トイレの便座に座らずに暮らすことは難しいため、トイレの便座にセンサーを設置すれば日常生活の中でモニタリングが可能となるとのこと。
トイレの便座でうっ血性心不全に関するモニタリングを行う場合、病院や患者の自宅で使用される既存のモニタリング装置とは違い、指ではなく「太ももの裏の動脈」から血液中の酸素量を測定する必要があるなど、標準からは外れた測定手法が必要となります。2014年にアイデアを考案してから4年かけて、研究チームは新たなセンサーの開発や、ノイズのある測定データを補正するカスタム回路やアルゴリズムの開発を行いました。
トイレの便座に腰掛けている間、患者は特に何かする必要はないそうで、用を足すために座るだけでモニタリングが完了するとConn氏は主張しています。便座を使ったモニタリング手法は、すでに300人以上で臨床試験が行われているそうで、2021年にFDAの認可が下りる予定とのこと。認可が下り次第、Conn氏はトイレの便座に設置するモニタリングセンサーを実用化したいと述べました。
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