サイエンス

永久凍土が解けることが地球環境に与える影響は「これまでの推定の2倍」との研究結果


永久凍土に含まれる温室効果ガス・メタンの影響により「想定以上の炭素が放出されている」ことが過去の研究から判明していますが、永久凍土の融解がもたらす地形に変化に注目した新たな研究により、その影響は「従来見積もられていた数字の2倍以上」だということが分かってきました。

Arctic permafrost thaw plays greater role in climate change than previously estimated | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/today/2020/02/03/arctic-permafrost-thaw-plays-greater-role-climate-change-previously-estimated

Rapid permafrost thaw an unrecognized threat to landscape
http://www.digitaljournal.com/news/environment/rapid-permafrost-thaw-an-unrecognized-threat-to-landscape/article/566468

Climate Models Are Running Red Hot, and Scientists Don’t Know Why - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2020-02-03/climate-models-are-running-red-hot-and-scientists-don-t-know-why

「永久凍土が解けると、北国にある森林は1カ月で湖に沈み、あちこちで突然地滑りが発生し、わずか数カ月で地形が様変わりしてしまいます」と指摘するのは、コロラド大学ボルダー校の生態系生態学Merritt Turetsky氏です。Turetsky氏によると、北極圏の永久凍土には特に地中に豊富な氷を含む場所があるため、そうした地域では劇的な地形の変化が起きるのだとのこと。

以下は、アラスカのインノコ国定野生保護区にある湿原の空撮写真です。地面にまだら模様ができているのが分かります。


Turetsky氏によると、こうしたまだら模様は永久凍土の融解と急激な温度変化が引き起こした、地面の侵食と土砂の陥没が原因となって発生するものだとのこと。専門家はこの現象を「サーモカルスト」と呼んでいます。

サーモカルストが永久凍土に与える影響について、Turetsky氏は「水が凍結して氷になると液体の水より体積が大きくなるので、氷が豊富な永久凍土が解けると逆に体積が減って地表が陥没したり、土砂崩れが起きたりします。こうした地形の劇的な変化に加え、洪水により森が枯れてしまうので、地球温暖化がますます加速します」と述べています。


永久凍土というと多くの人は氷に閉ざされたツンドラなどをイメージしますが、永久凍土の多くは北方林の下にあります。しかし、世界にある森林面積の3分の1を占めるといわれている北方林は、近年に入り前例のない火災に見舞われていることから、永久凍土の融解はさらに加速度的に進行していくとみられています。

サーモカルストの発生が永久凍土を急激に融解させていることに気づいたTuretsky氏は、サーモカルストがもたらす「急激な永久凍土の融解」を踏まえた炭素の放出量をモデル化して、従来の「ゆるやかな永久凍土の融解モデル」と比較しました。その結果、サーモカルストを考慮していないこれまでの気候モデルは、永久凍土の融解の影響を最大で50%も過小評価していることが判明したとのこと。


論文の共著者であるデビッド・ローレンス氏は「急激な融解の影響は、既存の気候モデルには含まれていません。今回の私たちの研究結果は、永久凍土の融解と気候との相互作用の影響を最大で2倍にまで引き上げ、これまでの気候変動対策の目標をさらに厳しいものにすることを示唆しています」とコメントしました。

Turetsky氏らの研究結果のように、新たな発見により従来の気候変動モデルが修正されることは、近年では頻繁に発生しています。その一例が以下の「二酸化炭素の量が産業革命以前の倍になったら気温は何度上昇するか」という気候感度について、世界各国の研究チームがシミュレーションした結果をまとめたグラフです。気候変動に関する政府間パネル(ICPP)第6次報告書の策定に向けて、世界各国の研究チームが持ち寄った合計27の気候モデルを平均した結果、「二酸化炭素の量が2倍になった場合の気温上昇の平均値」は従来の約3度から、3.86度にまで増加しました。


しかも、上記のグラフはTuretsky氏が今回発見したサーモカルストの影響を加味したものではありません。Turetsky氏は「今回の発見は、あらゆる気候モデルに永久凍土の影響を追加しなくてはならないこと物語っています。私たちは、今後10年の間にしかるべき行動を起こせば、最悪の結果は確実に回避できると考えていますが、それにはさらに強力な気候政策と地球温暖化の緩和策が必要になります」と述べて、国際的な気候変動対策の必要性を訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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