生き物

遺伝子操作したガを放ってキャベツの害虫を駆除する世界初の試み

by phyo wai than

遺伝子操作した生物を野生に放つ実験として、過去に「遺伝子操作した蚊でネッタイシマカを撲滅する放出実験」が行われましたが、この実験は失敗に終わり予想外の事態に発展しました。そんな中、遺伝子操作したガを放出する世界初の実験が行われ、その成果に注目が集まっています。

Frontiers | First Field Release of a Genetically Engineered, Self-Limiting Agricultural Pest Insect: Evaluating Its Potential for Future Crop Protection | Bioengineering and Biotechnology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2019.00482/full

New And Improved Crop Protection: Oxitec Self-Limiting, Genetically Engineered Diamondback Moth For Brassica | Science 2.0
https://www.science20.com/news_staff/new_and_improved_crop_protection_oxitec_selflimiting_genetically_engineered_diamondback_moth_for_brassica-244796

World First: Genetically Engineered Moth Is Released Into an Open Field | Technology Networks
https://www.technologynetworks.com/genomics/news/world-first-genetically-engineered-moth-is-released-into-an-open-field-329960

コナガはキャベツや白菜、ブロッコリーといったアブラナ科の作物を食害する害虫で、全世界での被害総額は50億ドル(約5445億3250万円)に達するとの試算もあります。しかも、コナガは多くの農薬に耐性を持つことが知られており、これまでチョウ目の害虫に対して用いられてきた有機リン剤合成ピレスロイド剤(PDFファイル)IGR剤BT剤のすべてに抵抗性を持つ個体が発見されています。特にBT剤では、コナガは抵抗性が認められた最初の害虫です。

by gbohne

そこで、イギリスを拠点とするバイオテクノロジー企業Oxitecのニール・モリソン氏らの研究グループは、遺伝子操作により「自己制限株」のコナガを開発しました。このコナガのメスは、エサにテトラサイクリンという抗生物質か、それに類似する物質が入っていないと死滅してしまいますが、オスは生き残ります。しかも、この性質は子孫にも受け継がれるので、「自己制限株」のコナガのオスを放出してメスのコナガと交尾させることで、次の世代にはオスの幼虫しか存在しなくなり、やがてコナガは死滅してしまうというわけです。

モリソン氏らが開発した「自己制限株」が有効に機能するかを確認するため、コーネル大学の昆虫学者アンソニー・シェルトン氏らは実際に「自己制限株」のコナガのオスと、普通のコナガのオスを試験場のキャベツ畑に放出。その後、キャベツ畑にトラップを仕掛けてガを捕獲し、あらかじめ色がついた粉末で目印をつけた「自己制限株」のコナガのオスと、普通のコナガのオスの個体数を数える標識再捕獲法により、「遺伝子操作をしたコナガが実際の畑で生存できるか」を調査しました。その結果、「自己制限株」のコナガのオスは、生存性や活動性において普通のコナガのオスと変わらないことが確かめられたとのこと。

さらに、「自己制限株」のオスに関するデータを元に、メスのコナガがいる畑に「自己制限株」のオスを放出した際の個体数の推移をシミュレーションしてみたところ、3世代でコナガが激減するとの結果が得られました。以下がシミュレーション結果のグラフで、縦軸はメスのコナガの個体数、横軸は「自己制限株」のオスを放出してからの日数を表しています。「自己制限株」のオスを放出しなかった場合を表す青色の破線と、「自己制限株」のオスと普通のオスを2:1で放出した場合を表すオレンジの破線を見比べると、「自己制限株」のオスを放出した場合の方が明らかに個体数が少ないことが分かります。「自己制限株」のオスと普通のオスの割合を10:1にした灰色の線に至ってはグラフの横軸と見分けがつかず、ほぼ全滅という結果になりました。


シェルトン氏は「私たちの研究は、農薬の危険性を訴えた有名な著書『沈黙の春』で生物学者レイチェル・カーソンが称賛した不妊虫放飼の理念を受け継ぐものです。遺伝子工学を駆使することで、カーソンが目指した農薬を使わない農業を、より効率的に実現できます」と述べました。

Oxitecは目下、ブラジルやパナマなどで「自己制限株」の蚊を用いた害虫駆除に取り組んでおり、複数の都市でデング熱ジカ熱を媒介するネッタイシマカを抑制する成果を挙げているとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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