子どもの栄養失調を解決する遺伝子組み換え米「ゴールデンライス」が農作物として正式に承認される
by 41330
米を主食とする地域でのビタミンA欠乏を解決できると期待されている遺伝子組み換え米「ゴールデンライス」の輸入・流通・栽培が、フィリピンで2020年12月に正式に承認されました。この承認によって、ゴールデンライスは普及への第一歩をようやく踏み出せるようになります。
Philippines approves Golden Rice for direct use as food and feed, or for processing | International Rice Research Institute
https://www.irri.org/news-and-events/news/philippines-approves-golden-rice-direct-use-food-and-feed-or-processing
Philippines Approves GMO Rice to Fight Malnutrition | Voice of America - English
https://www.voanews.com/science-health/philippines-approves-gmo-rice-fight-malnutrition
β-カロテンは、体内で必須栄養素のビタミンAに変換される物質です。ビタミンAが欠乏すると、骨や歯の発育不良や視力低下、免疫の低下などが引き起こされてしまいます。しかし、多くのアジア諸国で主食となっている米はβ-カロテンを含みません。
発展途上国の貧困層では、子どもは米のみを食べて生活することも多く、多くの国でビタミンA欠乏が問題となっています。国際米調査研究所(IRRI)によると、フィリピンの生後6カ月から5歳まででビタミンA欠乏症の発症率が2008年で15.2%だったのが、2013年時点で20.4%に増加しているとのこと。
by CarinaChen
そこで、スイスやドイツの研究機関は「β-カロテンを豊富に含む低コストな作物」の開発・研究を1990年代から推進。遺伝子組み換えによってβ-カロテンを産生できるようになった新しいイネ「ゴールデンライス」は、子どもたちのビタミンA欠乏を低コストで解消できる農作物として期待されました。
しかし、このゴールデンライスは遺伝子組み換え生物であることから、カルタヘナ議定書によって人体や環境への安全性が完全に証明されない限り、輸入・流通・栽培に厳しい規制がかかりました。そのため、ゴールデンライスの開発と研究は進んでいるものの、政府による承認がなかなか下りず、商用栽培に踏み出せないことが問題となっていました。
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そんな中、フィリピン農業省が「ゴールデンライスは従来の米と同程度に安全である」と判断し、ゴールデンライスの輸入・流通・栽培を承認したことを2019年12月18日に発表しました。フィリピン米調査研究所のエグゼクティブディレクターであるジョン・デ・レオン氏は「フィリピン農業省がゴールデンライスを承認したことによって、就学前の子どもや妊婦の多くに影響を与えるビタミンA欠乏問題の解決の糸口がつかめます」と、当局の決定を歓迎しています。
さらに、フィリピン議会下院のシャロン・ガリン議員は地元メディアによるインタビューの中で、ゴールデンライスの承認が下りたことを「科学、農業、そしてすべてのフィリピン人の勝利」と評しました。
一方で、環境団体のグリーンピースは「ゴールデンライスの安全性を示すデータは不完全なものであり、承認プロセスは透明性に欠けているため、承認は不当である」と主張し、ゴールデンライスの承認を取り消す要請をフィリピン農業省へ正式に提出しました。
また、環境団体のCenter for Food Safetyの科学政策アナリストであるビル・フリーゼ氏はゴールデンライスの有用性を認めながらも、「ゴールデンライスを万能薬と見なすべきではありません。優先すべきなのは、ビタミンAの欠乏に苦しむ人々の食事をより多くの果物や野菜で多様化することです」と語り、ゴールデンライスに過剰な期待をするべきではないという姿勢を見せています。
by Eiliv-Sonas Aceron
そんなフリーゼ氏の意見に対して、ゴールデンライス人道委員会のエイドリアン・デュボック氏は「食生活の移行には多くの時間と労力が必要であり、文化そのものを大きく変化させなければならないでしょう。ゴールデンライスであれば、白米の代替品として、今の食生活にシームレスに統合されるかもしれません」と反論しました。
なお、今回の承認は、あくまでもゴールデンライスの安全性が認められ、輸入・流通・栽培が可能になるというもの。国際米研究所によれば、ゴールデンライスがフィリピンの国内市場に出回るためにはまだいくつかの手続きが必要とのことで、実際にフィリピンの子どもたちがゴールデンライスを口にするまでにはもう少し時間がかかる模様です。
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