「愛」の意味は言語によって異なってくる
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日本に英語の「Love」やフランス語の「amour」という言葉が伝わった時に、これまで日本語にはなかった概念だとしてさまざま翻訳の試みが行われたという逸話があります。文化によっては言語的に表現できない感情があるということで、「人間の感情は普遍的なものなのか?それとも文化によって形成されたものなのか?」ということを調査すべく、言語学者が世界2474言語の語彙(ごい)を対象に調査を行いました。
Emotion semantics show both cultural variation and universal structure | Science
https://science.sciencemag.org/content/366/6472/1517
Emotional Words Such as "Love" Mean Different Things in Different Languages - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/emotional-words-such-as-love-mean-different-things-in-different-languages/
ドイツ語で「Weltschmerz」は世界の状態に憂うつな気分になることを、パプアニューギニア語の「Awumbuk」はゲストが日をまたいで翌日に出発した後にけだるさが残ることを意味するなど、国や文化によって異なる言葉の中には、うまく他の言語に翻訳ができないものもあります。
このような言葉の成り立ちを研究する科学者は、長い間、人間の感情の普遍的な根源が存在するのかどうかについて議論してきました。初期の研究ではパプアニューギニアの孤立した文化で生きる人々に対し、西洋人の顔を見せて表情から感情を読み取らせた結果、「世界の異なる場所で暮らす人でも同じように感情を理解する」と結論付けました。しかし、その後、心理学・神経科学・人類学などさまざまな側面から研究が行われることで、「感情は文化的な生い立ちに大きく影響される」という証拠が示されています。
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これらの研究の問題点は、多くの研究が2国間の比較にとどまっていること、また、比較対象を産業化された国に絞っていることだとノースカロライナ大学チャペルヒル校の博士研究員であるジョシュア・ジャクソン氏は指摘します。そこで、ジャクソン氏と同僚のクリステン・リンドキスト氏はマックス・プランク研究所の科学者たちと協力し、世界中の言語を対象にした調査に乗り出しました。
研究者が2474言語の語彙を対象に調査を行ったところ、「感情を表す言葉の変動性」と「いくつかの共通点」が見つかったとのこと。これまで研究者は感情が普遍的なものなのか、それとも変動するものなのかを見極めようとしてきましたが、その両側面が発見されたことになります。
感情表現の変動性を調査するため、研究者はまずコンピューターで「複数の意味を持つ言葉の巨大なデータベース」を作成しました。例えば、ロシア語の「ruka」は「腕」と「手」という2つの意味を持ち、英語の「funny」は「奇妙」と「ユーモラス」の2つの意味を持ちます。このような語彙のデータベースが作成されたわけです。
その後、チームはこのデータベースを使用して、20の言語ファミリーから2つの意味を持つ単語のネットワークを作成し、感情に関係する語彙を比較しました。これにより、感情が文化によってどのように概念化されているのかという著しい差異が明らかになったとのこと。例えば、ある国の言語において「surprise」(驚き)は「恐れ」に分類されますが、別の国ではsurpriseが「喜び」に分類されました。詳細に分析を行ったところ、この多様性の一部は言語ファミリーの地理的関係によって説明され、位置的に近い文化であれば言葉に共通点を持つ傾向があったそうです。「このような文化は貿易・移民・征服など、歴史的に接点を持ちやすく、互いに感情の概念を伝え合ったのでしょう」と研究者はみています。
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また、研究者たちは、「いずれの言語ファミリーも感情を価数(どれだけ快か、不快か)や活性度(どれほど興奮が誘発されるか)に基づいて差別化する」という類似点も発見しました。このため基本的には喜びを表現した言葉は、後悔を意味する言葉と同じグループにされることはありません。しかし例外として、日本語を含むオーストロネシアの言語は、基本的にポジティブな言葉であるはずの「love」(愛)を「同情」といったネガティブな言葉と同じグループに分類することがあったそうです。
ニューメキシコ大学の言語学者であるウィリアム・クロフト氏は「これは非常に重要な研究です。このようなスケールで言葉の意味が分析されたのはおそらく初めてでしょう」と研究についてコメント。一方で、いくつかの言語ファミリーは、広範な地理的領域で他言語を使用しているため、文化的要因についてさらに調査することが重要であるとも指摘しています。
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