2019年を象徴する科学研究12選
By geralt
イギリスの大手紙ガーディアンが、2019年に発表されたさまざまな科学的研究の中から、「2019年を代表する科学研究」を独自に選出しています。
The science stories that shaped 2019 | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2019/dec/22/the-science-stories-that-shaped-2019
◆1:地球温暖化に関する多数の研究
2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「地球温暖化を1.5℃以内に抑制することは不可能ではない」ことを示す「(PDFファイル)1.5℃特別報告書」を発表、世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに約45%削減し、2050年頃にゼロにするという目標を打ち出しました。
2019年の記録的な猛暑などが原因で、地球温暖化について大きな注目が集まった結果、2019年には温暖化に関する多数の研究が発表されました。氷河がこれまでの予想よりはるかに早く溶けているという研究や、地球温暖化は農業・漁業に深刻な影響を与えるという調査結果、果ては地球温暖化が原因で早産が増える可能性があるという研究も登場。さまざまな観点から地球温暖化の研究が進んでいます。
◆2:「北極海の氷」の調査
2019年9月、気候変動の影響解明を目指して、19カ国の科学者からなる調査団がドイツ連邦教育研究省の所有する砕氷船「ポーラーシュテルン」で北極圏に向かいました。この調査は「多分野にわたる北極気候研究のための学術的研究(MOSAiC)」と銘打たれたもので、北極の遠征調査史上では最大。研究は1年かけて行われる予定で、今まで未解明の部分が多かった北極の気候に関して、今回の調査が新たな光を投げかけると期待されています。
By Noel_Bauza
◆3:世界初「ブラックホールの映像」が公開
2019年4月10日、地球上の8基の電波望遠鏡を結合させた国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」によって、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールの映像が初めて取得されました。実際に発表されたブラックホールの姿が以下。
by EHT Collaboration
このブラックホールは地球から5500万光年離れた距離に位置し、その質量は太陽の65億倍。研究チームは、今後はさらに電波望遠鏡を追加してより鮮明な画像やムービーを撮影する予定だと発表しました。
◆4:エボラ出血熱の画期的な治療薬が2種登場
2018年から始まったコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱流行は、約1年間で1600人以上の犠牲者を出しました。そんな中、2019年に従来の治療薬よりも死亡率をさらに引き下げる新型エボラ出血熱治療薬が2種類も登場しました。
エボラ出血熱の画期的な治療薬が2種類も開発される、低ウイルス量で90%近い生存率 - GIGAZINE
by freestocks.org
この新型治療薬が、エボラ出血熱に苦しむコンゴ民主共和国の人々に役立つことが期待されています。
◆5:ヨーロッパ最古のホモサピエンスの化石が発見される
2019年7月、ギリシャの洞窟で発見された化石が、アフリカ以外では最古となる約21万年前のホモ・サピエンスの骨だということが判明しました。従来は、アフリカ大陸がヨーロッパ大陸に到達した時期は現代より約5万年前だと考えられてきましたが、この発見はホモ・サピエンスのヨーロッパ到達時期を16万年も早めました。
アフリカ外で最古のヒト化石発見 人類移動の歴史塗り替え 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3234642
◆6:「人間のゲノム編集」議論が活発化
2018年11月、中国の科学者である賀建奎氏が「ゲノム編集でHIV耐性を持つ双子を生み出した」と発表しました。この報を受けて2019年には人間の遺伝子構造を変更するという議論が盛んになったとのこと。世界保健機関(WHO)は新たに委員会を組織し、疾患の治療・回避を目的としたゲノム編集に関する枠組みを検討しています。
なお、問題の科学者・賀建奎氏は「行方不明になった」と報じられています。また、実験自体も失敗して「意図せぬ突然変異が引き起こされた」という指摘もされています。
遺伝子編集した赤ちゃんを生み出す実験が失敗して「意図せぬ突然変異」を引き起こした可能性が指摘される - GIGAZINE
by Profile
◆7:ノーベル賞化学賞を受賞した「リチウムイオンバッテリー」
アメリカ・テキサス大学オースティン校のジョン・グッドイナフ教授、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校スタンリー・ウィッティンガム教授とともに、旭化成名誉フェローで名城大学教授の吉野彰氏が2019年度のノーベル化学賞を授賞しました。授賞の対象となった研究は「リチウムバッテリー」に関するもので、グッドイナフ教授とウィッティンガム教授のアイデアを吉野氏が実現させたことにより、受賞者は3名となりました。リチウムイオンバッテリーは、今や世界中で利用されているスマートフォンなどのポータブルエレクトロニクスに搭載されています。
Akira Yoshino – Facts – 2019
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2019/yoshino/facts/
◆8:マダガスカルの現状が「人間の影響」を浮き彫りに
世界最小の霊長類・マダムベルテネズミキツネザルなどが生息する、世界の生物多様性の約5%が存在するとされるマダガスカルでは、気候変動、外来種の侵入、人間による動物の乱獲・農業の拡大などのさまざまな問題が生じています。マダガスカルには保護区が存在していますが、2019年11月に発表された研究では、1万2000以上の保護区と非保護区の調査によって、非保護区よりも保護区での「人間の影響力の増加」が著しいと判明。「保護区の管理」に重きが置かれるべきだと指摘されています。
◆9:かくれんぼが大好きなラット
ドイツのフンボルト大学の研究チームが、「ラットはかくれんぼのルールを覚えることが可能で、かくれんぼ自体を楽しんで遊ぶ」という研究を発表しました。研究は、かくれんぼは動物の遊びの中ではかなり複雑だということや、ラットはエサなどの「報酬」が与えられなくても喜んでかくれんぼを遊ぶということを指摘し、「人間が遊ぶ方法と驚くほど近い」と述べました。
CNN.co.jp : ネズミもかくれんぼのルールを学習、勝てば「歓声」も 独研究
https://www.cnn.co.jp/fringe/35142800.html
◆10:ノーベル生理学・医学賞研究「低酸素応答のメカニズムの解明」
2019年度のノーベル生理学・医学賞は、「低酸素応答」のメカニズムを明らかにしたアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学のグレッグ・セメンザ教授、ハーバード大学およびダナ・ファーバーがん研究所のウィリアム・ケリン教授、イギリスのオックスフォード大学のピーター・ラトクリフ教授に贈られました。低酸素応答は「酸素が足りているかいないかを細胞が検知するメカニズム」で、セメンザ教授らはこの反応を制御する分子が「HIF-1α」「ARNT」と呼ばれる2つの複合タンパク質であることを突き止めました。
2019年ノーベル生理学・医学賞:細胞の低酸素応答の仕組みの解明で米英の3氏に | 日経サイエンス
http://www.nikkei-science.com/?p=59820
◆11:イスラエルの月面探査機「Beresheet lander」
「Beresheet lander」はイスラエルの民間宇宙団体「SpaceIL」が開発した月面探査機です。Beresheet landerは若者の間で幅広い関心を集め、多数の支援金によって完成。「国家が関与しない民間団体」としては世界初となる月面着陸に挑みました。Beresheet landerは2019年2月22日の打ち上げには成功しましたが、2019年4月10日の着陸には残念ながら失敗しました。
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by Israel To The Moon
ガーディアンは今回の記事で、Beresheet landerの失敗を「英雄的な失敗」と表現し、試み自体を高く評価しました。なお、Beresheet landerは月面墜落時に驚異的な生命力で有名なクマムシ数千匹を月面にばらまいたことでも話題になりました。
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by Juhasz Imre
◆12:「キログラム」の再定義
2019年5月、国際単位系の、メートル(m)、キログラム(kg)、秒(s)、アンペア(A)、ケルビン(K)、モル(mol)、カンデラ(cd)の7つの基本単位のうち、キログラム・アンペア・ケルビン・モルの4単位が再定義されました。キログラムの旧定義は「国際キログラム原器の質量」でしたが、新定義は「キログラムはプランク定数の値を正確に6.62607015×10-34ジュール・秒(J s、これはまた m2 kg s-1とも表せる)と定めることによって設定される」となり、プランク定数を通して光子が持つエネルギー量と関連付けられました。
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