「人生に対する不満」を癒やす方法とは?
仕事・友人・恋愛・趣味は人生を豊かにしてくれるものですが、一方でそれらに対する不満が人生の妨げになってしまう場合もあります。科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが、幸福を感じるメカニズムと科学的な調査に裏付けられた「人生に対する不満を癒やし、幸福を感じるようになる習慣」について解説しています。
An Antidote to Dissatisfaction - YouTube
誰しもが「物事が思い通りにいかない」という感覚を抱いて……
「仕事で十分に成功していない」「友人関係がうまくいかない」と感じることがあります。
「『本当に欲しいもの』を手に入れていない」
そういった感情が慢性化すると、他人をねたむようになるだけでなく、憂鬱な気持ちが続きます。
近年では、ポップカルチャーやソーシャルメディアなどが「理想の仕事以外は『失敗』です」「素晴らしい体験をして、多くの友人を作り、『ソウルメイト』を見つけることが本当の幸福です」と宣伝しており、「他の人は本物の幸せを見つけているんだ」と思えてくるので、他人へのねたみや憂鬱な気持ちはより悪化します。
加えて、自己啓発的な商品がたくさん世の中に出回っているので、「頑張っていないのは自分が原因なんだ」と受け取ってしまいがち。
そんな人生に対する不満について、20年ほど前に「人は『物事が思い通りにいかない』という衝動にどの程度立ち向かえているのか?」という研究が始まりました。研究の結果、「何が人生を豊かにするのか」を研究する「ポジティブ心理学」が登場。同時に、ネガティブな感情を変える「認知行動療法」も発展しました。
研究者は「幸福と満ち足りた気持ちを生み出す原因」と「その原因を人に適応させる方法」について分析を始めています。
研究者らは、「人生に対する不満」の一番の特効薬は「感謝」だと主張しています。
「感謝」といわれると、SNSで流行している自己啓発的なイメージが付きまといますが……
今回行う解説は科学的な調査に基づいたものです。
感謝は、人や状況に応じて異なる意味を持ちます。他人が自分にしてくれたことに対する気持ちだったり、天候や自然、運命に対する気持ちだったりします。
感謝より前に存在したものは、「互恵」だといえます。互恵は相互利益のために物事を互いに交換するように生物を仕向ける生物的なシグナルのようなもので、特定の魚や鳥、哺乳類などで互恵に基づいた行動が確認されています。しかし、生物の中で最も互恵的な行動を行うのは、人間を含む霊長類です。
霊長類の脳が「他者が自身に『何か良いことをしてくれた』」と認識すると、感謝の反応が生じて、お返しをしたくなる衝動が生じます。
感謝の気持ちによって霊長類はお互いを気に掛けるようになったわけです。
人間は特に他者の感情を読むことに優れており、「利己的な人」を見分けて避けることが可能です。
この能力は、他者と上手に生活する上での進化論的な利点で、「お互いが感謝に対して感謝し続ける」という持続的な関係を生み出しました。
人類の祖先はこの関係によって、絆や友情を生み出しました。このように、人類史の初期における感謝は、お互いに協力するように自身の態度を修正するという生物的なメカニズムだったといえます。
そして、時が経るにつれて、感謝は互恵的な関係を構築するための衝動以上のものになりました。
研究によると、感謝は脳の神経を刺激し、社会的な絆を形成したり、他者の意図をくみ取る報酬系に関わりがあると判明しています。
加えて、感謝はポジティブな記憶を保存し、思い出すことを助ける働きもあります。
さらに、感謝は、嫉妬しやすい傾向や他人と自分を比較しがちな性質、ナルシシズム、シニシズム、物質主義などの性向やネガティブな感情を中和することも可能。
これらの結果、感謝している状態にある人は幸福で満たされている傾向があるとわかっています。
頻繁に感謝する人は、良い人間関係を構築することができるだけでなく、簡単に友人を作り、睡眠の質が高く、うつ病・中毒・燃え尽き症候群などに陥りにくい傾向があり、さらにトラウマに打ち勝つ能力にも優れています。
一方、現代社会には「心理的な罠」が存在しています。
目標に向かって長い間懸命に頑張ってきたとしても、それを得たときには空疎に思えてしまい、現状に満足するのではなく満足を追い求めて延々と何かに頑張り続けてしまうことや……
友人が欲しいと思っているのにも関わらず、友人からの誘いを「彼らでは不十分だ」と思ってしまうことが、「心理的な罠」ということ。
しかし、自分の友人関係に感謝することができれば、友人からの誘いを受け入れたり、自分から誘ったりすることができます。そして友人関係を広げた結果、新たな人々と出会えるチャンスが訪れるものです。
感謝がポジティブな振る舞いを生み出し、自分のポジティブな振る舞いが周囲の感謝を引き出すという「感謝のループ」が得られることだってあります。
化学療法などのつらい経験を終えたばかりの人にとっては……
太陽の下で友達と喋りながら食事を取ることだって幸せに満ちあふれています。
つらい経験を乗り越えた人には、少々人生がひどい方向に向かっていたとしても、脳が現在とつらい時期を比較するため、脳内では感謝の反応が生じます。
端的にいえば、感謝は自分がすでに持っている「良いもの」を再認識させてくれるということです。
その結果として、気分が良くなったり、ポジティブな経験をしたりするようになるわけです。
感謝をどれだけ多く覚えるかについては個人差があり、感謝を覚える量を決定する「感謝特性」によって異なります。
感謝特性は、遺伝や性格、文化に依存することがわかっていますが……
科学者は「感謝特性を変える」研究を始めています。
ただし、「後天的な努力でどれほど感謝特性が変わるか」「変わったとして、どれほど効果が持続するか」についてはまだ未知の部分が残されています。それゆえ、幸福になる薬が存在するとはいえません。人生は複雑で、上手くいく日もあれば、上手くいかない日もあります。
幸せを追い求めた結果、逆に不幸せになることだってあります。
また、感謝によってうつ病が治ったり、専門家の治療が不要になったりもしません。
感謝したからといって、何でも解決するわけではありません。感謝は人生というパズルを解くためのピースの1つに過ぎません。
しっかりした研究によって裏付けられた、感謝を実践する簡単な方法は「感謝日記を付ける」という方法。感謝日記は、週に1度から3度、「感謝した出来事」を5個~10個ノートに書き出すというもの。
感謝日記を始めた頃はなんだか奇妙に思えるかもしれませんが、続けるにつれて「コーヒーがすごくおいしかった」「他人が親切にしてくれた」といった小さなことにも感謝できるようになります。
他人がしてくれたことに対して感謝できるようになれば、他人があなたのそばにいてくれることだけでも感謝できるようになります。
膨大な数の調査の結果、感謝日記を数週間継続するだけで被験者の幸福度と人生に対する満足度が改善すると判明しています。
さらに、感謝日記によって生じた脳の活動の変化は感謝日記を終えても数カ月間持続するという報告も提出されています。
感謝を実践していくことは、自分自身を作り替える本物の方法かもしれません。自分自身や自分の人生に関する信念を変えれば、あなたの思考と感情を変化させて自分の行動を変えることが可能です。
必要なものは紙とペンだけ、1度にたった数分しかかからない感謝日記のような内省で、脳の活動が変化するというのは驚くべきことだといえます。
感謝できることに積極的に目を向ければ、あなたの人生はあなたが思っているより素晴らしいのかもしれません。
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