SF作品にありがちな「ドーム型の宇宙基地」は現実的ではない
by O Palsson
ゲームや映画などのSF作品において、月や火星に建設された基地が「ドーム型」に描かれるケースが多くあります。しかし、ハイパーループに関する専門家でありながら火星探査などに関する著作を出版しているケイシー・ハンドマー氏が「ドーム型の宇宙基地は見た目はカッコいいが、現実的ではない」と指摘しています。
Domes are very over-rated – Casey Handmer's blog
https://caseyhandmer.wordpress.com/2019/11/28/domes-are-very-over-rated/
ハンドマー氏は最初に、宇宙基地の目的が「その惑星で自給自足すること」だとして議論を開始しています。火星での基地建造に話を限定すると、火星表面は空気が薄い上に平均気温がマイナス43度と厳しい環境な上に、地球からロケットで持ち込める機材・建材にも限界があります。そのため、火星での基地建造は「地球から持ってきた資源を使い果たす前に自給自足のシステムを構築する」という制限があるわけです。
By Nicolas Lobos
火星上で自給自足のために農業や工業を開始する場合、宇宙服では作業効率に限りがあるため、「生身で動けるスペース」が必要です。また、現代の工場は作業効率の観点から複数階建てではなく、1階建てのものがほとんど。開拓初期の火星では土地を自由に使っていいことも考慮すると、「火星基地も1階建てになるはず」とハンドマー氏は仮定しています。
そんな火星基地をドーム型にした場合に発生する問題が、「ドーム部分の強度」です。ドームは内部の空気圧によって、ドーム部分の形状を維持しています。しかし、ハンドマー氏は、「一般的な家屋のサイズのドームですら接合部分から空気と熱が漏れる」と指摘。ドーム部分に掛かる揚力はドームの面積に比例し、地面との接着部に掛かる力はドームの円周に比例します。ハンドマー氏は計算によって、「火星上には直径150フィート(約45メートル)以上のドームは建造できない」と結論付けています。
また、ドーム型基地はその形状ゆえに、一度建築してしまうと拡張することができません。それゆえ必要に応じてまた別のドーム型基地を建造しなくてはならないわけですが、その場合は「基地間の接続部」もまた問題になります。接続部はドームの球場壁面に合わせた開口部にならざるをえない上に、トラックなどの大型車両が通過できるほどの広さを有しながらも、緊急時には接続部を遮断して空気が逃げないようにする隔壁を設置する必要もあります。ハンドマー氏はこういった接続部の構造について、「工学上の悪夢」だと表現しています。
By Chris Boyer
それではどんな形状の火星基地がベストなのかというと、ハンドマー氏は「石組みの巨大金庫のようなものが最良だと考えていたが、最近では張力構造を利用した建造物が最も優れていると考えを改めるようになりました」と記しています。ドームも張力構造を利用した建造物ですが、ハンドマー氏が考えているのは、一定間隔で鉄製ケーブルの柱を建てたものです。ハンドマー氏がコンセプトとして公開している建造物のイメージ図が以下。
この形状ならば拡張性や耐久性に優れているとハンドマー氏は主張しています。また、建材として、ハンドマー氏は「エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)」というポリマーを推しました。ETFEは高い耐放射線特性を備えている上に、熱や化学変化によって溶着させることが可能という優れもの。そして何より、ETFEは火星の大地から簡単に製造できるとのこと。地球上でもETFEは建材として活用されており、マンチェスター・ピカデリー駅の屋根の一部はETFE製。
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床に建材を敷き詰めても圧力が漏れることを回避できない点と、火星の大地を農地として活用できる点から、床部分には火星の大地を直接活用するのが適切とハンドマー氏は主張しています。
また、火星の天然の地形を利用する案や、地面を掘って地下に基地を建造するという案は、掘削に膨大な労力・エネルギーが必要であり、自然光が活用できないという点が難点とのことです。
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