「ホッケースティックに見える気温の急上昇グラフ」を批判された気候学者が裁判で勝訴
by dotshock
アメリカの最高裁判所が、地球温暖化に関する研究論文の著者を批判したことで名誉毀損で訴えられたシンクタンク及び出版社の、控訴を棄却する判決を下しました。一連の裁判のきっかけとなったのは地球温暖化により地球の気温がホッケースティックのように急激に変化するというグラフであったため、一連の騒動は「ホッケースティック論争」と呼ばれています。
U.S. Supreme Court lets climate scientist's defamation claim proceed - Reuters
https://www.reuters.com/article/us-usa-court-scientist/us-supreme-court-lets-climate-scientists-defamation-claim-proceed-idUSKBN1XZ1QF
Supreme Court: Penn State climate change scientist’s lawsuit against National Review can continue - The Morning Call
https://www.mcall.com/news/pennsylvania/mc-nws-pa-michael-mann-climate-change-lawsuit-20191125-px4ixxybkbco3gl5jocuoxs2la-story.html
Supreme Court won't throw out climate scientist Michael Mann's defamation suit against National Review - CNNPolitics
https://edition.cnn.com/2019/11/25/politics/supreme-court-climate-scientist-michael-mann-national-review/index.html
Supreme Court & National Review v. Mann -- Free Speech in Abeyance | National Review
https://www.nationalreview.com/2019/11/free-speech-in-abeyance/
Supreme Court allows climate scientist’s defamation case to proceed | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/11/supreme-court-allows-climate-scientists-defamation-case-to-proceed/
ペンシルバニア州立大学の気候学者であるマイケル・E・マン教授は、1998年に地球温暖化に関する研究結果をまとめた論文を発表しました。マン教授は論文の中で、「木の年輪から過去1000年以上の気温変化を測定したところ、19世紀に入り気温が急激に上昇したことが分かった」と指摘。その時の研究結果から作成されたグラフが以下の画像です。
by Klaus Bittermann
気温の急激な上昇を示すグラフがホッケースティックのように見えることから、このグラフは「ホッケースティック曲線」と呼ばれ、地球温暖化対する懐疑的な人々から「データの改ざんが行われている」と非難を集めることとなりました。
中でも特に厳しい批判を展開したのが、ワシントンD.C.を拠点とするシンクタンクCompetitive Enterprise Institute(CEI)のコラムニストであるランド・シンバーグ氏です。シンバーグ氏は、少年10人に対する性的虐待で逮捕されたペンジルベニア州立大学の元アメリカンフットボール・コーチであるジェリー・サンダスキーを引き合いに出し、「マン教授は子どもをレイプする代わりに、データをレイプして虐待した、気象学界のジェリー・サンダスキーだ」との内容を含む記事をCEIのサイトに掲載しました。また、アメリカの政治誌National Reviewのライターであるマーク・ステイン氏はシンバーグ氏のコラムを引用し、「マン教授の研究は詐欺的だ」とする記事を雑誌に掲載しました。
by 4711018
こうした批判に対し、マン教授は「名誉棄損にあたる」としてシンバーグ氏とマーク・ステイン氏を相手に訴訟を起こしました。これに対して、シンバーグ氏らは「マン教授による提訴は恫喝訴訟である」として、コロンビア特別区連邦控訴裁判所に対してマン教授の訴えを退けるよう求めました。しかし、控訴裁判所は2016年の判決で、シンバーグ氏らの訴えを(PDFファイル)棄却。シンバーグ氏らはその後も再審理の請求を繰り返しましたが、最終的に控訴裁判所は2019年3月に再審理を拒否する決定を行いました。
この判決を不服としたシンバーグ氏らはアメリカ合衆国連邦最高裁判所に上訴しましたが、最高裁は2019年11月25日にシンバーグ氏らの訴えを棄却し、マン教授に対して名誉棄損の訴えを行うことを許可する判決を下しました。最高裁判所はこの判決に際しコメントを発表しませんでしたが、裁判に携わったサミュエル・アリト判事は「本件は言論の自由や報道の自由といった、憲法が保証する権利の核心に迫る問題を提議しています」とする(PDFファイル)意見書を公開。この意見書について、技術系ニュースサイトのArs Technicaは「アリト判事は名誉棄損とされた主張が表現の自由を規定したアメリカ合衆国憲法修正第1条の適用を受けるかどうか明言していませんが、おそらく判事は最高裁にシンバーグ氏らの主張を認めさせたかったことでしょう」と述べて、最高裁の中でも意見が割れていたことを指摘しました。
by BrianAJackson
裁判の当事者でもあるNational Reviewは「我々はこの戦いを絶対に放棄するつもりはありませんが、最高裁がこの問題を放り出すという選択をしたことには不満を感じます」と述べて、引き続きマン教授と争う姿勢を打ち出すとともに、最高裁判決に対する不満を表明しました。一方、マン教授はアメリカの放送局CNNの取材に対し、「ほぼ全会一致で決まった最高裁判決には満足しているし、今後の裁判を楽しみにしています」とコメントしました。
マン教授による名誉棄損の訴えは、提訴の取り下げを求める被告側の訴えが破棄されたことで、今後コロンビア特別区裁判所に差し戻され、改めて審理が進められる見通しです。
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