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「.org」ドメインの管理団体が設立からわずか数カ月の投資企業に売却された背景とは?

by Capri23auto

トップレベルドメインの1つである「.org」は、主に非営利団体や学校などに使用されるドメインです。2019年11月、「.org」を管理する非営利団体のPublic Interest Registry(PIR)が、Ethos Capitalという投資会社に売却されたことが判明。多くの人々がこの事態を問題視する中、ハーバード大学のサイバースペース研究機関であるバークマン・センターに所属する研究者のサミュエル・クライン氏がブログで、「.org」管理団体の売却騒動にまつわる背景をまとめています。

ICANN races towards regulatory capture: the great .ORG heist
http://blogs.harvard.edu/sj/2019/11/23/a-tale-of-icann-and-regulatory-capture-the-dot-org-heist/

「.org」は「組織・団体」を意味する「organization」という単語に由来しており、1985年に設立された最初のドメインの1つでもあります。2003年以来、PIRが「.org」のドメインデータベースを管理するレジストリとなって維持・管理が行われ、記事作成時点では1000万を超える「.org」ドメインが登録されているとのこと。

人々の目に見える形で「.org」を取り巻く環境が変化し始めたのは、2019年6月30日付けでドメインデータベースの管理団体Internet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)とPIRがレジストリ契約を更新し、「.orgドメイン登録価格の上限撤廃」が契約に盛り込まれた一件です。かつて、PIRがビジネス能力を持つドメイン登録業者のレジストラに請求できる登録料金は、1ドメイン当たり年間9.05ドル(約980円)が上限となっていました。ところが、この契約更新によって料金の上限が撤廃され、「.org」ドメインの使用料が値上げされる可能性が出てきました。

3000件以上の反対を押し切り「.org」ドメイン登録価格の上限撤廃が決定、将来的には値上げの可能性も - GIGAZINE


契約更新に対するパブリックコメントは3000件以上も寄せられ、その98%が価格上限撤廃に異を唱えるものでしたが、ICANNとPIRはコメントを無視する形で契約を更新。PIRは声明の中で「『.orgドメイン』の登録料値上げに関する具体的な計画はありません。私たちは15年以上にもわたる.orgのレジストリオペレーターとしての仕事に誇りを持っており、皆さんが『.orgドメイン』と私たちに寄せてくださっている信頼を決して裏切りません」と訴え、理解を求めました。

しかしそのわずか数カ月後の2019年11月13日、PIRの上位組織であるInternet Society(ISOC)は「PIRを投資企業のEthos Capitalに売却しました」と発表。買収に反対する署名活動がスタートする事態となっています。

非営利団体や学校向けの「.orgドメイン」が管理団体ごと私企業に売り払われてしまったことが判明 - GIGAZINE


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クライン氏によると、Ethos Capitalが設立されたのはPIRの買収が判明するわずか数カ月前の2019年5月であり、社内にはたった2人のスタッフしかおらず、行っている事業はPIRの買収だけだとのこと。「.org」ドメイン管理団体の買収騒動に関しては、2012年~2016年にかけてICANNのCEOを務めたFadi Chehadé氏を中心とする、少数の人々が暗躍していたとクライン氏は指摘しています。


2014年以降、Chehadé氏のもとで利用可能な分野別トップレベルドメイン(gTLD)数は劇的に増加し、全体で約1400個になりました。そんな中、新gTLDの申請・運用のために設立された新興企業のDonutsは、およそ250個のTLDを所有することに成功します。

そして2016年、Chehadé氏はICANNを離れてボストンの投資企業であるAbry Partnersに参加し、2018年9月にはAbry PartnersがDonutsの株式の過半数を取得するのを助けました。その直後、Donutsの共同創設者であるJon Nevett氏がDonutsを辞任し、2018年12月にPIRの新CEOに就任したとのこと。

Nevett氏が就任した直後の2019年初頭、PIRはICANNに「.org」の価格上限を引き上げるように要請し、PIRはあくまでも非営利団体であることを強調して契約の更新にこぎつけます。こうした動きの中、Chehadé氏は2019年5月に「EthosCapital.com」のドメインを登録し、2019年5月14日からEthos Capitalはボストンに拠点を置く新しい「投資会社」として法人化されました。Ethos Capitalの創業者となったのはAbry Partnersの幹部であったErik Brooks氏で、もう1人の社員として登録されているNora Abusitta-Ouri氏は、ICANNの元シニア・バイス・プレジデントだそうです。


その後、2019年11月には驚くべき速さでEthos CapitalによるPIRの買収が発表されました。PIRでCEOを務めるNevett氏は、2019年9月にEthos Capitalから買収のアプローチがあったと説明していますが、以前からEthos Capital周辺の人々と既知の間柄だったことは明らかです。

クライン氏は「一連の動きは倫理、ICANN、ISOC、非営利団体のガイドラインに違反しているようです。Ethos CapitalによるPIR買収は、明らかに非営利の独占から営利の独占に移行するための民営化であり、数百万人の人々の迷惑をかけることで利益を得るでしょう」と述べ、Chehadé氏を含む関係者を非難しました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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