脳は0.3秒以内にお気に入りの音楽を聞き分けることができることが判明
by _cbudd
何度も聴いた耳馴染みのある曲の場合、イントロ部分ですぐに曲名がわかることがありますが、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームによれば「人の脳はわずか0.1~0.3秒で好きな曲を認識することができる」そうです。
Rapid Brain Responses to Familiar vs. Unfamiliar Music – an EEG and Pupillometry study | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-51759-9
Your brain only needs 0.1 to 0.3 seconds to recognize a familiar song
https://www.zmescience.com/science/brain-song-recognition-9151432/
人間はお気に入りの曲をすぐに感知することが可能で、イントロが流れて1秒未満でどの曲が流れているのかを当てることに成功した、という人も少なくないはずです。そこで、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは聴覚障害や神経障害のない男女5名ずつを対象に、人間の脳がどれだけ早くお気に入りの曲に反応するのかを調べる実験を行いました。
被験者たちは「個人的な思い入れがあり、前向きな感情が喚起されるお気に入りの曲」をそれぞれ5曲ずつ挙げ、研究チームに提出しました。その後、研究チームは被験者が挙げた「思い入れのある曲」にテンポ・メロディ・ハーモニー・ボーカル・楽器といった曲の要素が類似していながら、「被験者に馴染みのない曲」をYouTubeなどのウェブサイトを駆使し、被験者1人につき5曲ずつ選出。研究チームが選出した楽曲は、タイトルと15秒ほどの音源で「本当に被験者に馴染みのない曲かどうか」が確認されたそうです。
そして研究チームは、被験者を薄暗くて外部の音が聞こえない部屋に、あごを固定した状態で座らせました。被験者の左右には、54cm離れた位置に30度の角度で2個のスピーカーが置かれ、スピーカーから音楽が流されたとのこと。実験で流した音楽は、被験者それぞれの「お気に入りの曲」と「馴染みのない曲」を、それぞれ1秒未満の非常に短い音源として100個抽出し、1~1.5秒の間隔を空けてランダムに再生したものです。実験に用いられた短い音源からは、曲の最初や最後の無音パートが除かれており、曲の同じ箇所は1度しか用いられませんでした。
by Free-Photos
研究チームは、100個の短い音源をランダムに組み合わせた音源を被験者に聞かせている間、被験者の脳波イメージングと瞳孔径測定を行い、各被験者が音楽に対してどのように反応したのかをチェックしました。
その結果、被験者はお気に入りの曲を聞いてからその曲を認識するまで、わずか0.1~0.3秒しか要さないことが判明したとのこと。曲を認識したという判断は、急速な瞳孔の拡大および記憶の検索に関わる皮質の活性化に基づいて行われ、馴染みのない曲に対する反応とは有意に差が見られたそうです。
また、研究チームは「メインの被験者らが聞いた曲にいずれも馴染みがない」と答えた対照グループについても、同様に実験を行いました。この対照グループの被験者については、研究に用いられた全ての曲を知らない必要があったため、英語が母語ではない留学生たちで構成されていたとのこと。全ての曲に馴染みがない対照グループの被験者では、急速な瞳孔の拡大や記憶の検索に関する皮質の活性化が確認されませんでした。
by geralt
論文の主著者であるMaria Chait教授は、「私たちの結果は、馴染みのある曲に対する認識が非常に速く起きることを示しています」と述べ、お気に入りの曲が人々の記憶と深くつながっていると指摘。多くの人々は音楽を単なる芸術や娯楽、趣味程度のものと考えていますが、研究チームは人間の脳がどのように好きな曲を認識するかを理解することで、さまざまな患者に対する治療的介入に役立てられると主張しています。
たとえば認知症患者は記憶に問題を抱えている場合が多いものの、かつて好きだった曲を歌うことができるなど、音楽の記憶は十分に保存されていることがあります。こうした患者の治療やサポートを行う上で、音楽と脳の関わりを理解することは重要だとのことです。
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