2019年にノーベル賞を受賞した研究は27年前に科学誌に掲載拒否されていた
by Steve Johnson
科学的な発見は即時的に起こるものではなく、人々の意識が変化し、その発見を「受け入れる」状況ができて初めて起こります。2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞した研究も当初は人々から受け入れられず、27年前に科学誌から掲載を拒否されていました。
27-Year-old Letter Reveals Scientist Peter Ratcliffe's Nobel Prize Winning Study Was Rejected by Journal - News18
https://www.news18.com/news/world/27-year-old-letter-reveals-scientist-peter-ratcliffes-nobel-prize-winning-study-was-rejected-by-journal-2344475.html
2019年のノーベル医学生理学賞は「変化する酸素レベルを人間の細胞がどう感知し適応するのか」について研究を行ったウィリアム・ケリン教授、グレッグ・セメンザ教授、ピーター・ラトクリフ教授の3名に送られました。酸素の細胞に対する影響はこれまでも重要性が認められていたところですが、細胞が変化にどう適応するかは分かっていませんでした。ノーベル委員会は3氏の研究は「貧血やがん、その他多くの疾患と闘う新たな戦略への道を切り開くもの」だと評価しています。
2019年のノーベル医学生理学賞、米英の3氏に 写真11枚 国際ニュース:AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3248368
しかし、この論文は27年前、1992年に科学誌から掲載を拒否されたものだったとのこと。
1992年の8月5日、当時Natureの編集委員の一人だったローリー・ハウエット氏は、ラトクリフ氏に対し「2人の査読者からのコメントを受けて、論文を掲載しないと決定しました」と手紙を送りました。
手紙には「1人の査読者からの意見の不一致を受け、残念ですが私たちは最終的に、あなたの論文はより専門的な雑誌に掲載した方がよいと結論付けました」と書かれていたとのこと。当時、2人の査読者は低酸素症に対する遺伝メカニズムの反応について理解できず、研究の方向性が他の研究者の理解を超えたものだったことから掲載が拒否されたのだとラトクリフ氏は述べています。
なお、ノーベル賞受賞者の論文が拒否されていたというケースはラトクリフ氏だけではありません。ヒッグス粒子の理論に関する論文を提出したピーター・ヒッグス氏も1964年に論文が拒否されましたが、2013年にノーベル賞を受賞。また放射免疫測定技術を開発したロサリン・ヤロー氏も査読者に「基礎が欠けている」と判断され論文掲載が拒否されましたが、1977年にノーベル賞を受賞しました。
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