科学者が小説家から学んだ「よりよい科学論文を書くいろは」を学術論文雑誌のNatureが紹介
どれほど卓越した研究者が行った偉大な研究でも、論文として正確に伝えられなければその研究をアピールできません。そんな「素晴らしい科学論文を書く方法」を、「科学者が小説家から受けたアドバイス」という形で学術論文雑誌Natureが掲載しています。
Novelist Cormac McCarthy’s tips on how to write a great science paper
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02918-5
Natureが紹介しているのは、アメリカの小説家コーマック・マッカーシー氏から理論生物学者および生態学者のヴァン・サベージ氏に与えられたアドバイスを、進化生物学者のパメラ・イェー氏の考えと組み合わせたもの。サベージ氏は大学院生のときにマッカーシー氏と出会って以来、20年間にわたって科学論文執筆の際に編集アドバイスを受けていたそうです。
サベージ氏とイェー氏は、マッカーシー氏による「素晴らしい科学論文を書くための17個のヒント」を以下のようにまとめています。
◆1:
単語、文、段落、あるいはそのセクションは趣旨に照らして必要なものかを常に考え、ミニマリズムを意識すること。できる限り余分な単語や読点(コンマ)を削除する。
◆2:
論文のテーマと、すべての読者に覚えてほしい2、3のポイントを決定し、論文の全ての要素がそこと結び付くように構成していくこと。読者がメインテーマを理解するために役立つものでなければ省略する。
◆3:
ひとつの段落で説明する内容はひとつのメッセージに制限する。
◆4:
文章を短くし、単純に構成し、直接的な表現にすること。読者がメインのメッセージに集中できるように、単語を組み合わせた節や複合文、および「しかしながら」「このように」といった転換語を使うことは極力避ける。
◆5:
専門用語や流行語など、脚注が必要になる言葉は読むスピードを遅らせるため選択しない。また、同じ単語を繰り返し使用すると飽きるので、表現を工夫する。
◆6:
詳しく説明過ぎるのは逆効果。形容詞は特に関連する場合にしか用いず、また同じセクションで同じことを何通りもの手段で言うと読者を断念させる愚作になる。
◆7:
脱線した話題にまで議論したがる読者について心配する必要はない。メインメッセージを書くことだけを楽しむこと。
◆8:
文法に固執して完璧な文を作成するよりも、理解しやすさを意識する方がよっぽど肝要。
◆9:
コンマ(読点)を入れるのは、音読する時の一息であり、文を前後から区別するのが目的ではない。文章を声に出して読み、一時停止を見つけるのがよい。
◆10:
ダッシュ記号は用語の定義だけではなく、重要な部分について太字や斜体を使わずに強調することにも有効。セミコロンは形式的で悪い書き方を助長するだけなので避け、また感嘆符や「驚くほど」「興味をそそる」といったような表現は論文中で1、2回程度に留める。
◆11:
科学的な質問部分と形式的でない部分を区別し、フレンドリーな文体を使えるところは柔らかく記述する方がよい。非人称で受動的なテキストは客観的な記述だと思われがちだが、客観的でも事実的でもなく伝わりにくいだけ。「地球はこの太陽系の中心です」とするより、「私たちは太陽系の中心にいます」と書く方が読者にとって親しみがあり読みやすい文になる。
◆12:
抽象的な表現ではなく具体的な比喩にして伝えること。抽象的な球体の色について語る場合は、「赤い風船」「青いビリヤードボール」と伝える方が魅力的。
◆13:
数式は文の途中に配置しない。改行や空白、捕捉セクションなどを使用してテキストから方程式を分離すること。
◆14:
完成したと自分の中で思った後で、自分や友人に声を出して読ませること。特に、しっかりと自分の時間を費やしてくれる友人に信頼できる編集者となってもらうことが大事。
◆15:
以上まで完了したら、論文雑誌の編集者に送付し、いったん論文のことは忘れること。編集者から返信があった時は、イギリスの小説家ラドヤード・キップリングが残した次のアドバイスを思い浮かべるとよい。「誰もがあなたを疑う状況でも、あなたは自身を信頼してください。ただその一方で、あなたを疑う人の考えも認めてください」
◆16:
編集者からコンマの使い方や「かなり」の使い方、関係代名詞の「that」と「which」の区別などを「正しい表現はこうだ」と指摘されたとしても、いらだって反論しないこと。雑誌にはそれぞれ独自のルールというものがあるため、そこに従うことも大事。
◆17:
最後に、論文を書く際はあなたの最も良いもの、つまりあなたが好きなものを選択すること。不特定の読者を楽しませるのは無理でも、自分を喜ばせることはできる。あなたの論文は後世まで残っていくので、論文を楽しんで書いている間、自分が初めて刺激を受けた論文をどのように読んだかを思い浮かべるのがよい。
以上のアイデアは科学論文を書くためのアドバイスとして語られていますが、他の学術論文はもちろん、小説やコラムなどあらゆるテキストを記述する際に役立つはず。サベージ氏とイェー氏によると、マッカーシー氏のヒントで最も重要なものは「一貫性と説得力のあるストーリーを語りながらもシンプルにする」ということです。
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