サイエンス

人間はどうやって感覚に集中して注意を向けるのか?

by SofieZborilova

人間は、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった五感や痛覚、平衡感覚などさまざまな感覚情報を得て、周りの状況を把握しながら生きています。しかし、全身から膨大な量の情報を得ているため、特定の情報に注目したい時は「集中し、注目したいものに注意を向ける」ことが必要です。人が何かに注意を向けている時に脳の中で何が起こっているのか、そのメカニズムについて科学系メディアのQuanta Magazineが解説しています。

To Pay Attention, the Brain Uses Filters, Not a Spotlight | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/to-pay-attention-the-brain-uses-filters-not-a-spotlight-20190924/


DNAの二重らせん構造解析でノーベル生理学・医学賞を受賞したフランシス・クリックは、人間が注意を向ける時のメカニズムを説明する理論として「サーチライト仮説」を1984年に発表しました。頭部の中心近くにある視床は間脳の一部で、意識・思考・記憶など高次機能をつかさどっている大脳皮質へ、嗅覚以外の感覚情報を中継する役割があります。クリックが唱えたサーチライト仮説は、この視床を覆うように存在している視床網様核という部位が感覚情報を選別し、必要な情報に集中していると考えるもの。言い換えれば「視床網様核が、視床と大脳皮質をつなぐ単なる橋ではなく、情報を制御する門番としても機能している」という主張です。

by relaky

2015年、マサチューセッツ工科大学の神経科学者であるマイケル・ハラッサ准教授の率いる研究チームは、点滅する光と音を感知すると走るように訓練したマウスを使って、サーチライト仮説のメカニズムを検証。マウスが光と音のどちらを無視するのか、どのように注意を向けているのかを、脳のさまざまな部位の活動を遮断しながら観察しました。

結果としてはまず、大脳皮質の前頭前皮質によって注意を向ける方向が制御されていることがわかりました。そして、視床網様核の視覚に関連するニューロンが興奮すると、マウスの視覚能力が低下することも判明。また、視床網様核の視覚に関連するニューロンがオフになると、マウスは指定の音に注意を払うことができなくなったとのこと。

by Travis Isaacs

研究チームは、視床網様核には感覚情報を遮断する抑制型ニューロンがあり、これが前頭前皮質からの命令で興奮することで、視床に入力された感覚情報のうち不必要なものを除去していたと指摘しています。例えば、マウスが音に反応する場合、前頭前皮質からの指示によって視床網様核が視覚情報を除去するため、視覚への注意が向けられなくなるとのこと。

つまり、人の脳は「見えているもの・聞こえたものから注意すべき情報だけを強化する」のではなく、「見えているもの・聞こえたものから注意しなくていい不要な情報を捨てる」というメカニズムで注意を実現しているというわけです。

by Max Pixel

ロチェスター大学の神経科学者であるデュジェ・タディン氏は「重要性の低いものを取り除いたり無視したりすることが、情報をより効率的に処理する方法です。騒がしい部屋にいる時、より大きな声を出して相手に聞こえるようにするのか、それとも騒音の原因を取り除くかという話です」と述べています。

また、ハラッサ准教授は2017年に、2015年の実験と同じ方法で、さらに細かく脳の機能的影響を研究し、サーチライト仮説を支える感覚情報の回路を突き止めました。ハラッサ准教授によると、大脳に入った感覚情報は前頭前皮質から、運動や認知の制御を行う大脳基底核に送られ、視床網様核へフィードバックされるとのこと。つまり、前頭前皮質の指示に従って、大脳基底核が視床網様核の抑制型ニューロンを制御していたとハラッサ准教授は報告しています。

ただし、注意を向けたいもの以外を不要な情報として完全に排除してしまうと、もし重要な情報が含まれていた場合、致命的なミスを招きかねません。2018年に発表された研究論文では、単一の刺激に過度に集中し過ぎないように、視床網様核による抑制が1秒間におよそ4回弱くなることがわかりました。この振幅によって、集中していた部分以外の感覚情報にも必要に応じて注意を向ける隙を作れるというわけです。

プリンストン大学の脳神経科学者で論文の主筆者でもあるイアン・フィーベルコーン氏は「私の研究が示しているのは、人間の注意力は連続的に輝き続けるビームではなく、点滅するスポットライトのようなものだということです。脳は定期的に注意散漫になるように配線されているようです」と説明しました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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