多くの映画の悲劇的なシーンで用いられる決まった旋律「Dies irae」とは?
「Dies irae(ディエス・イレ)」は、カトリック教会のミサで用いられる聖歌を構成するパートの1つであり、「3大レクイエム」に数えられるモーツァルトやヴェルディ作曲のものがよく知られています。実は、これらの曲の軸をなす旋律は13世紀ごろには確立しており、多くの映画において悲劇的なシーンで多く用いられています。
Why this creepy melody is in so many movies - YouTube
映画「ライオン・キング」で主人公シンバの父、ムファサが死亡したシーンや……
「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」でルーク・スカイウォーカーのおじさん・おばさんが殺されたシーン。
そして「素晴らしき哉、人生!」で、ジョージ・ベイリーが死を決意したシーンなど、有名映画の中には印象的な悲劇的シーンが多く見られます。
実はこれらの悲劇的シーンには、ある共通点があるとのこと。
それは、シーンの背後で流れているBGM。
いずれのシーンでも、4つの音で構成された印象的な旋律が使われています。
実はこの旋律は、他の映画でも広く使われており……
「ロード・オブ・ザ・リング」などでも、同様の旋律が使われています。
実はこの旋律は、実に800年にわたって「死」と結び付けられてきました。
映画の悲劇的シーンで頻繁に使われるこの旋律は、「Dies irae」と呼ばれています。
13世紀ごろにカトリックの修道士によって、グレゴリオ聖歌の「Dies irae」の旋律が選定されました。
Gregorian Chant - "Dies Irae" - YouTube
Dies iraeは葬儀において使われていたとのこと。
「怒りの日」とも訳されるDies iraeは、キリスト教においてキリストが全ての人間を地上に復活させ、審判を行う日のことを指します。
この審判によって人々は天国に行くのか、それとも地獄に行くのかが決められるそうです。
バークリー音楽大学のアレックス・ルドウィグ教授は、Dies iraeの旋律について研究する人物です。
ルドウィグ氏は、「Dies iraeの旋律を使った映画」の膨大なリストを作成しています。
「音楽と映画の文脈が組み合わさり、不気味な恐怖感を生み出します」と、ルドウィグ氏はDies iraeの効果について述べています。
13世紀に生まれたDies iraeは教会の影響力拡大と共に広く浸透していき……
やがてヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した「レクイエム」に使われるなど、教会の儀式以外の場でも用いられるようになりました。
さらに1830年、フランスの作曲家であるエクトル・ベルリオーズが作曲した「幻想交響曲」により、文化に占めるDies iraeの位置はさらに高まったとのこと。
幻想交響曲では、Dies iraeの旋律が非常に効果的に使われています。ベルリオーズの幻想交響曲は「恋に深く絶望しアヘンを吸った、豊かな想像力を備えたある芸術家」の物語を音楽で表現したものとされており、Dies iraeが当初用いられていた葬儀などが直接的に関係しているわけではありません。
しかし、第5楽章「魔女の夜宴の夢」ではDies iraeが主題に用いられており、音楽の不気味な雰囲気を際立たせているとのこと。
ジュゼッペ・ヴェルディの「レクイエム」など、多くの偉大な作曲家がDies iraeを用いた楽曲を制作しました。
そして、映画に使われる音楽にもDies iraeが使われるようになったとのこと。
映画の中でDies iraeが使われる場合、不吉なものや暗い展開を示唆するものとなります。
初期のサイレント映画ではしばしばオーケストラが同伴して、映画に合わせて曲を演奏しました。
1927年に公開された「メトロポリス」では、Dies iraeが映画に合わせた音楽として使われたとのこと。
メトロポリスは支配階級と労働者階級に二極分化した徹底的な階級社会を描いたSF映画で、Dies iraeを効果的に使用しています。
Dies iraeは恐ろしい展開をイメージさせる簡単で印象的な旋律として、多くの映画に用いられてきました。
その中でも「シャイニング」で使われたDies iraeは、多くの人に強い印象を与えました。
「シャイニングがホラー映画であることは誰もが知っており、Dies iraeは完璧に映画の内容を指し示しています」と、ルドウィグ氏は指摘。
13世紀の葬儀から現代のホラー映画にまで幅広くDies iraeが使われてきた理由は……
基本的なDies iraeに使われる「ファ・ミ・ファ・レ」という4つの音が、人々に不快感を与えるからだそうです。
Dies iraeの旋律は暗い印象や悲しみのイメージを与える、短調で構成されています。
また、ピアノの鍵盤で「ファ・ミ・ファ・レ(F・E・F・D)」の並びを見ると、ファとミが黒鍵を挟まずに隣合っていることがわかります。ルドウィグ氏によると、人間の耳は隣合った音を好まないそうです。
また、ファ・ミ・ファの次はレの音が続き、全体的に音が下降していきますが……
下降する旋律は悲しさをイメージさせるとのこと。
これらの要素が組み合わさり、Dies iraeの不気味さが醸し出されていると考えられています。
また、Dies iraeの旋律は文化的に深く人々の間に浸透しており……
「エクソシスト」のテーマのように改変が施されていても、恐ろしいイメージを示唆できるとのこと。
「Dies iraeの旋律が未だに使われていることは非常に魅力的です」とルドウィグ氏は述べており、Dies iraeが使われている映画リストは次々に更新されているそうです。
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