映画「ファイトクラブ」の人を殴るリアルな音はどうやって再現しているのか?
1999年に公開された映画「ファイト・クラブ」は、その過激な内容から批評家に「内容が暴力的すぎる」という評価を受けたことで知られています。厳しい評価を受けたことで、公開後は製作費の回収が困難になるほど興行収入が低かったのですが、驚くような展開を見せる脚本やリアリティーのある映像などから、後に名作映画の一つとして再評価されることになりました。YouTuberのダニエル・ネッツェルさんは、このリアリティーの秘密は音響効果にあるとして、作品内の「人を殴る時の音」がどのように作られたか、YouTubeでわかりやすく解説しています。
Fight Club | The Beauty of Sound Design - YouTube
「映画とは『ビジュアル』と『サウンド』の複合体です」
「映画監督のデヴィッド・フィンチャー氏は、常に映画のビジュアル部分で限界に挑戦することを好んでおり、映画作品に対してCGIの使用を強く主張してきた監督の一人でもありました」
「フィンチャー監督の過去作品では、1999年の『ファイト・クラブ』でその傾向が鮮明に見えてきます」
「フィンチャー監督がこだわるように、映像が際立っているのは映画を見た人にはわかるはず。しかし、サウンド面も非常に優れていると感じる人は少ないと思います。なぜなら、優れた音響効果はビジュアルと違和感なく一体化しているからです」
「ファイト・クラブをはじめ、多くの映画では周囲の環境音を撮影時に録音せず、後から人の手によって環境音を追加するのが映画制作の主流となっています」
「このため、以下のようなナイトクラブの場面を撮影する場合、本来なら周囲の人の声やクラブミュージックなどの環境音があるはずですが……」
「撮影時に環境音が聞こえてくることは、ほとんどありません。つまり、収録される音は登場人物の会話のみとなっていて、後から環境音を追加して違和感のない映像に仕上げているというわけです」
ファイト・クラブの音響を担当したレン・クライス氏は、サウンドデザイナーの仕事について「映画の撮影スタッフが映像を撮るときは『観客が実際に見えるもの』と同じ環境や視点で撮影することを心掛けています。サウンドデザインも同じように『観客が実際に聞こえる音』と全く同じものを作ることに重点を置いています」と語っています。
ネッツェルさんは「ファイト・クラブで殴り合いを行うシーンで『人を殴る音』が映像のリアリティーを大きく高めています」と語ります。
「しかし、他のほとんどの映画の戦闘シーンでは、リアルさが欠けています。たとえば、ダイ・ハードの主人公ジョン・マクレーンと強盗グループのリーダーであるハンス・グルーバーが殴り合うシーンでは、相手を殴った時の音が甲高く乾いた音になっており、どこか違和感を感じてしまうはずです」
「この音を再現するために何が使われたかは不明ですが、実際多くの映画の戦闘シーンではリアルさが欠如しています。しかし、全ての映画が『リアルさ』を追究する必要はないので、これだけで映画自体の評価を下げるべきではありません。それでも、ファイト・クラブの戦闘シーンの音響効果に一定の価値があることは間違いありません」
「ファイト・クラブの公開当初、アメリカでは批評家から『暴力的すぎる』として非難されたことを受けて、製作費の回収が困難になるほど興行収入が落ち込んでしまうという事態が発生しました。配給元の20世紀フォックスは、この件で何人もの重役を解雇することになりましたが、ファイト・クラブが『暴力的』と非難された背景には優れた音響効果も一因にあったと考えられます」
このリアルな音作り関して、クライス氏は「私たちは当初、『パンチ音』は過去の音響効果のライブラリから流用することを考えていました」と語っています。
「しかし、過去のパンチ音はセロリの束をラップで巻き、へし折った音を使っていたため……」
「乾いた音になってしまい、リアルさに欠けてしまうという問題がありました」
「そこで、私たちは鶏肉をたたくという方法を試すことにしました」
「その後、試行錯誤を繰り返した結果、鶏肉の中にクルミを入れてたたいた音と……」
「伝統的なパンチの音と合成することで、リアリティーのあるパンチ音を生み出すことができました」
ネッツェルさんは「ファイト・クラブはサウンドデザイナーのクライス氏、そしてリチャード・ヒムズ氏の功績もあり、非常に没入感のある映画に仕上がっています」と話しています。
「しかし、音響効果を担当するサウンドデザイナーやフォーリー・アーティストは、映画の中で最も過小評価されている仕事だとも考えられます」
「なぜなら、彼らの仕事の完成度が高ければ高いほど、観客は音響効果の素晴らしさに気づくことはないからです」
「そして音響技術はリアリティーのあるパンチの音だけでなく……」
「現実にはない音も作成しています。たとえば、スター・ウォーズに登場するライトセーバーの音は、映写機のモーターの音とブラウン管の音を組み合わせただけのものです。しかし、観客は誰もこの音に違和感を感じておらず、ウソの音を本物と信じさせることこそが、サウンドデザインの真骨頂であるといえます」
ネッツェルさんは最後に「サウンドデザインの出来次第で作品を良いものに変えたり、悪いものに変えたりすることがあります。しかし、ファイト・クラブはクライス氏とヒムズ氏の力によって、とても素晴らしい作品に仕上げられていると断言できます」と語り、ムービーを締めくくっています。
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