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「イスラム国」が用いるハリウッド流の効果的な映像編集スタイルを解説


イスラム過激派組織「イスラム国(イスラミックステート:IS)」は、高い編集技術を用いて作成したプロパガンダ映像をYouTubeなどで発信することで支持を広げているといわれています。その映像の中にはまるでハリウッド映画をほうふつとさせる高度な編集が垣間見えるものもあるのですが、その撮影・編集手法について詳しい解説が公開されています。

GUEST POST: ISIS and the Hollywood Visual Style | JIHADOLOGY
http://jihadology.net/2015/07/06/guest-post-isis-and-the-hollywood-visual-style/

ISが作成している映像は、内容はさておいても、映像制作において「業界標準」の重要ポイントをきちんと押さえた制作が行われています。映像を使って組織の考えを表現し、伝えるためには専門的なノウハウが欠かせないことから、制作過程に専門教育を受けた人間の関与が指摘されています。

◆1:クリアな画作りと冒頭に流れるロゴ
美麗な映像を制作するためには、人間が「見る」際の科学的なメカニズムを理解し、効果的な手法を導入することが必要です。例えば、以下の映像の一部ではスイカが非常に鮮やかに再現されていることがわかります。これは、それぞれの色をはっきりと浮かび上がらせてコントラスト感の強い絵になるよう、撮影後に映像のカラーレンジ調整をすることで、使われている色数そのものを絞り込んでいるため。現実の見た目よりも強調された状態に仕上げられているわけですが、見た目に鮮やかな映像を作るために用いられることの多い手法です。


また、撮影時のテクニックにも専門的なノウハウが投入されているとのこと。以下の映像では、絞りを調節して背景をぼかすことで、メインとなる人物を効果的に浮かび上がらせるという手法が用いられています。いわゆる「ボケ感」を効果的に使っているわけですが、これも経験の少ない素人には難しいテクニックといえます。

さらに、ネットで映像が拡散される際においては、その拡散経路の中で映像が圧縮されて画質が悪化することもよくあります。ISはこの点をプロダクションの段階から考慮に入れており、圧縮が連続しても高いクリア感を保つためのノウハウが用いられていると考えられています。

一方、アルカーイダの下部組織で反政府武装組織のアル=ヌスラ戦線(JN)が制作した映像だとずいぶんと様子が異なります。以下のムービーはJNの手によるものなのですが、ブレがひどく、途中で登場する看板の内容に至ってはほとんど読み取れません。

とはいえ、JNでも高い映像制作技術の導入が進んでいるようで、映像の冒頭に表示されるロゴは3DCGで制作されていたりします。

この流れは別の組織にも広がっています。「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)の映像でも冒頭にCGロゴが用いられており、専門スタッフの存在がうかがえます。

◆2:映像構成
ISの映像を見ていると、細部にまで注意の行き届いた制作が行われていることが垣間見えるとのこと。以下のISによる映像を見ると少し演出過剰にも思えますが、全体的にキッチリとした構成で映像が作られていることがわかります。

一方、JNによる映像だとこんな感じ。映像がぶれていたり、やたらとズームイン・ズームアウトが多用されるなど、どことなく素人っぽい構成になっていることが感じられます。

この違いは、映像の企画段階でどれだけ明確なビジョンを持っているのかによって生まれます。全体をうまくまとめ上げるためには知識と経験が不可欠、ということで、やはりISには専門のノウハウを持った人物が関わっていることがわかります。

◆3:カメラアングル
ISのノウハウは、カメラのアングル設定にも活かされています。以下の映像のように一人称視点で撮影される映像が多いことも特徴とされていますが、適当に撮影したのではなく、対象となる素材がきちんと伝わるようにアングルやピントの設定が行われていることがわかります。

JNの場合だと、やはりどこかに「アマチュア臭さ」のようなものが漂います。ISと同様に一人称視点で撮影された映像ですが、全体を見ても何を伝えたいのかいまいちピンと来ない内容となっており、組織のプロパガンダを目的とする映像としては非常にマズいと言わざるを得ません。

以下の映像は、ISが複数のカメラを使って人物のスピーチを撮影したものですが、背景となる人物のレイアウトや「ボケ」感、カメラの切り替えタイミングなど、全体的にこなれた印象を受けます。

同様の内容をJNが作るとこうなります。何となく間延びした内容や工夫の感じられないカメラ切り替えなど、「適当に編集した」感を強く感じてしまいます。

◆4:ライティング(照明)
うまくライティングを行うことで、登場する人物がどのような役目を持つ人なのかを効果的に伝えることが可能になります。この画像はISによる映像を切り出したものですが、光と影をうまく使うことで雄弁にIS加入を訴える人物の真剣さを表現しているといえます。


JNの映像はあまり照明に配慮されておらず、どこか「くすんだ」映像になっていることがわかります。


◆5:プリプロ・ポスプロ(編集作業)
以下の映像はISが制作したものですが、ブレが目立ったりアングルが傾いているなど、これまで挙げてきた映像とはことなる雰囲気を持っていることがわかります。しかしこれらは決して下手なカメラマンが撮影したものではなく、戦場の緊迫した雰囲気をかもし出すことを目的とした制作によるものとのこと。戦場の様子を伝えるためには、その状況にふさわしい画作りがあるわけで、必ずしも「よい映像=きれいな映像」ではないことが理解されている例だと指摘されています。よく見ると、映像のブレ方にも微妙な修正が加えられているようにも感じられます。

◆6:エフェクト
時には映像にエフェクトを施して特殊な効果を加えることもあります。以下のムービーではスプレーで描かれた部分にISの旗のようなものが浮かび上がるエフェクトが行われています。

◆結論
これらの「洗練」された映像を見た人は、組織に対してある種の信頼感のようなものを感じるようになるため、ISは数々の編集技術を用いて映像のクオリティを上げ、組織への求心力を高めようとしています。ともすれば「邪道」とも取れる手法ですが、大きく勢力を伸ばしたISの実情を見ると改めて映像が持つ影響力の大きさを垣間見せられる気がしてきます。

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in 動画, Posted by darkhorse_log

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