サイエンス

約3000円で作れる熱電発電装置でLEDライト点灯に成功、放射冷却を用いた発電に驚くべき可能性

by Nadine Shaabana

太陽光発電の弱点の1つは、夜になると発電できないところで、このために世界では少なからぬ人が夜間、電力の恩恵を受けられずにいます。こうした状況を打破するものとして、研究者らが放射冷却により「宇宙の寒さ」を利用する低コスト発電の戦略を見いだしました。実際に研究者らは、わずか3000円ほどの市販品を集めた装置で、夜間にLEDライトを点灯させることに成功しています。

Generating Light from Darkness
https://doi.org/10.1016/j.joule.2019.08.009


研究を手がけたのはカリフォルニア大学ロサンゼルス校のアースワス・P・ラマン氏、スタンフォード大学のウェイ・リー氏とシャンフィ・ファン氏。ラマン氏とファン氏は2012年から「放射冷却」に関する共同研究を行っていて、放射冷却を利用してより環境に優しい冷却と空調を実現するパネルの製造を行う「SkyCool Systems」の共同創業者でもあります。放射冷却を用いて、低コストで熱電発電を行うというのは、この研究から生まれた副次的なアイデアだったそうです。

ラマン氏らの作った発電装置はかなり簡素なもの。写真で見えている黒い円盤は、熱電発電モジュールを挟むように取り付けられたアルミニウム製の円盤のうち空側のもの。円盤を置いてある台はなにやらボコボコと不格好ですが、これは円盤以外からの熱放射を防ぐために、ポリスチレンの基礎をアルミで覆ったものです。材料はいずれも市販品で「高校生ならマネできる」とのことで、かかった費用はおよそ30ドル(約3200円)ほど。


模式図はこんな感じ。熱電発電モジュールの下に、アルミニウム製ボックスを挟んで設置された地面側の円盤には、PCやエアコンの排熱などでも利用されているアルミフィンが取り付けられています。


仕組みとしては、空に向けたコールドサイド(低温側)の円盤で熱放射を行い、大気を高温側の熱源として、その温度差で発電するというもの。太陽熱が地球まで放射で届くのとは反対に、低温側円盤からの熱は放射熱伝達で宇宙に拡散することになるそうです。

ラマン氏らはこの装置を2017年12月にカリフォルニア州スタンフォードにある建物の屋上から高さ1mのところに設置し、18時から実験を開始しました。天候は晴れで、露天温度は-1℃から-3℃だったとのこと。

実験結果は以下のグラフの通りで、オレンジ色の折れ線が高温側円盤と低温側円盤の温度差、青が出力を示します。温度差は最大で2℃、出力は最大時に約0.8mWで、これはエネルギーとしては25mW/m²に相当するとのこと。


以下のグラフは上から気温、高温側、低温側の温度を示したもの。低温側の円盤は「放射冷却器」となっていて、気温より4℃~5℃低いのですが、高温側も気温より低い状態が保たれました。


得られた出力は、発電能力としてはわずかなものでしたが、ブースターを挟んでLEDを接続したところ点灯させることに成功しました。輝度は最大の10%ほどだったそうです。


「熱電発電素子を用いて夜間に発電する」という試みはラマン氏らのものが初めてというわけではありませんが、これまでの試みの多くでは積極的な熱入力が必要でした。今回のシステムは、完全に受動的であることがポイントで、さらに既存の技術だけでも出力は0.5W/m²まで上げることが可能だと考えられています。

前述のようにもともとは別の研究の副次的なアイデアとして生まれたものですが、「夜の闇から光を生み出せた」ということは、宇宙空間の冷たさすらも発電のための熱力学的資源として真剣に扱うべきことを示している、とファン氏は述べています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by logc_nt

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