従来の5倍もの効率で熱を電気エネルギーに変換する物質が発見される
by Omar Bárcena
発電所や機械の動作で発生する熱エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換することができれば、大きなエネルギー効率の上昇が見込めます。多くの研究者が高効率な発電ができる材料の研究を進めてきましたが、MITの科学者らは高磁場の環境下で特定の材料に高熱を加えることで、大きなエネルギーを得られることを理論的に示唆しました。
Large, nonsaturating thermopower in a quantizing magnetic field | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/4/5/eaat2621
New materials, heated under high magnetic fields, could produce record levels of energy
https://knowridge.com/2018/05/new-materials-heated-under-high-magnetic-fields-could-produce-record-levels-of-energy/
熱電発電とは、物体の温度差が直接電力に変換されるゼーベック効果という現象を利用して、熱を持った物体から電力エネルギーを得る発電方法です。物体の片面が高温、反対の面が低温の状態になると両面の間に電位差が生じて発電できるこのシステムでは、熱を効率よく電気エネルギーに変換できる材料(熱電変換素子)が求められます。熱電発電の実用化が現実味を持って受け入れられてから60年もの間、世界中の研究者らは効率的な熱電変換素子を探し求めてきました。
そんな中、2018年5月25日に科学雑誌のScience AdvancesにMITの研究チームが発表した研究結果によれば、従来の熱電変換素子よりも5倍も高い効率で発電可能な熱電変換素子が発見されたとのこと。
熱電変換素子は2種類の異なる金属や半導体を接合し、両端に温度差を生じさせて高温側の電子を低温側に移動させ、電圧を発生させています。ほとんどの材料において、電子は一定の範囲(バンド)にしか存在することができず、電子が移動する時にはバンドギャップと呼ばれる電子が存在できない領域を飛び越える必要があります。
MITの研究者であるブライアン・スキナー氏とリャン・フー氏は、トポロジカル半金属と呼ばれるバンドギャップがない特殊な物質群の性質について調査しました。
by Matthieu Y
トポロジカル半金属にはバンドギャップが存在しないため、高温側にある電子は簡単に冷温側へ移動することができます。研究室内で人工的に作られるトポロジカル半金属は電子の移動が簡単な一方で、物質内を移動する自由電子の数が少ないことから、大きな熱電ポテンシャルがないと考えられていました。
スキナー氏とフー氏は、「強い磁場にさらされた状態でトポロジカル半金属がどのような特性を示すのか?」という点に興味を持ち、温度と磁場を変えつつトポロジカル半金属の熱電性能を理論化する作業を行いました。すると、鉛・スズ・セレンの化合物であるトポロジカル半金属について、従来の熱電変換素子を大きく上回る熱電性能を有していることが判明したとのこと。
鉛・スズ・セレンからなるトポロジカル半金属は、約30テスラ(一般的なMRIは約2~3テスラで動作する)という強い磁場の環境下で、熱電変換素子の評価単位である「ZT」が10という高い値になると研究チームは計算しました。これまで最も効率がよいとされた熱電変換素子でもZT=2程度であり、スキナー氏らは一気に従来の5倍もの熱電変換効率を持った材料を発見したことになります。
by Brian Jeffery Beggerly
鉛・スズ・セレンからなるトポロジカル半金属は磁場にさらされると、電子が熱い側から冷たい側へ移動するのに加え、「正の電荷を持った電子と同じ振る舞いをする正孔が冷たい側から熱い側へ移動します。電子と正孔のはたらきによって熱が電力に変換されるため、「原理的には磁場を強くするだけで電圧が得られます」とスキナー氏は語っています。
残念ながら30テスラという非常に強い磁場は、特殊な研究室といった環境でしか作り出せない上に、変換効率を保つためにトポロジカル半金属には高い純度が求められるとのこと。スキナー氏らは「今回実験したトポロジカル半金属以外にも、さらに優れた材料がある可能性は高い」と語っており、さらに効率のいい物質が見つかるだろうとしています。また、やがて3テスラ程度の比較的簡単に発生させられる磁場のもとで、高い熱電変換効率を持たせられるように研究を進めていくと研究チームは述べました。
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