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政府によるインターネット封鎖が11日も続いているインド・カシミールの現状とは?

by Colin Tsoi

インド北部とパキスタン北東部の国境付近に広がる山岳地帯・カシミールは、インドやパキスタンによる衝突が絶えない不安定な地域です。そんな中、インド政府がジャンムー・カシミール州において「インターネットの封鎖」を実施しており、現地では2019年8月5日から11日間にわたってインターネットが使えない事態が続いています。

India Shut Down Kashmir’s Internet Access. Now, ‘We Cannot Do Anything.’ - The New York Times
https://www.nytimes.com/2019/08/14/technology/india-kashmir-internet.html

ジャンムー・カシミール州はインドにおいて唯一イスラム教徒が多数派を占める地域であり、インドとパキスタンによる衝突の最前線となっています。インド政府はさまざまな宗教・政治的理由からジャンムー・カシミール州に対して自治権を認めてきましたが、2019年8月5日にナレンドラ・モディ首相は自治権の廃止を宣言。住民からは反発の声も挙がっています。

また、自治権廃止が宣言される数時間前から、ジャンムー・カシミール州は携帯電話やインターネット、固定電話の通信が遮断されたとのこと。州都シュリーナガルの一部地域には大量の兵士が集まっていたという情報もあるほか、地元の指導者らが軟禁状態にあるとも報じられています

インドでは近年、インターネットなどの通信網が急速に発達してきましたが、同時にインド政府は非常に頻繁にインターネットを遮断することでも知られています。2018年にはなんと134回ものインターネット遮断を実施したそうで、世界で2番目にインターネットの遮断が多かったパキスタンの12回を超え、「世界で1番インターネットを遮断することが多い政府」となっています。

by bruce mars

インターネットを遮断する理由は政治的抗議活動の抑制、デマの拡散防止、選挙や学生の試験における不正を防ぐといったものが挙げられています。インターネットの遮断は非常に簡単で、当局がインターネットプロバイダなどに連絡するだけで、すぐにインターネットの提供をストップできる仕組みになっているとのこと。

すでに11日間もインターネットが遮断され続けているジャンムー・カシミール州では、生活にさまざまな支障が出ています。シュリーナガルで薬剤師をしているMasroor Nazir氏は薬の注文を行ってきたため、ニューヨーク・タイムズに対して「私たちは全てにインターネットを使用してきました」「今の私たちは何もできません」と語っており、現状だと治療に必要な薬がない可能性があるため、地域の人々の「病気にはならないように」とアドバイスしているとのこと。

店頭ではインスリンなどの薬剤やベビーフードのような生活必需品が不足している上に、医師も患者とコミュニケーションが取れずに困っているとのこと。人々が電話をかけられるのは、政府が指定したいくつかの場所に設置された固定電話だけであり、数分間話すためだけにかなりの待ち時間が必要だそうです。

by David Sun

住民は娯楽を楽しむツールだったスマートフォンが、インターネットの遮断によってただの金属塊になってしまったと嘆いています。また、オンラインで伝統工芸品を販売する事業を手がけるMuheet Mehraj氏も、サプライヤーや顧客との連絡がつかなくなり、仕事は休業状態だとコメント。Mehraj氏はこれまでに何度もインターネットの遮断に遭遇してきたそうですが、今回のケースはその中でも最悪の事例だとのこと。

インド政府はインターネットが誤った情報を拡散し、人々の心を惑わせるとしており、「平和と静けさ」のためにインターネットを遮断することを正当化しています。しかし、実際にはインターネットの遮断によるインド政府へのダメージは当局が思っている以上に深刻だとのこと。

Indian Council for Research on International Economic Relations(ICRIER)(PDFファイル)調査によると、2012年から2017年にかけて行われたインターネット遮断により、実に30億ドル(約3200億円)以上の経済損失が発生したそうです。たとえばダージリンで行われた2017年のインターネット封鎖により、地元経済の主産業である茶の生産がストップし、インターネットが回復した後も従来の海外顧客が戻ってこないという事態になっています。

by XPeria2Day

また、インターネットを遮断したことによってデマの拡散がなくなったわけではありません。ニューヨーク・タイムズの記者は現地で「シュリーナガルのデモ隊に治安部隊が発砲し、虐殺が起きた」といったうわさが口コミで流れていることを知りましたが、事実関係を調査したところ、負傷者はいたものの死者は出ていなかったとのこと。

ジャンムー・カシミール州でデジタル決済サービスのセールスを行っているUmar Qayoom氏は、インターネットの遮断によって人々が仕事もできず、娯楽も楽しめない暇な状態に置かれることで、新たなリスクが発生すると指摘。暇を持てあまし、政府に不満を持つ若者にとって、抗議活動や警察に石を投げることは魅力的な行動に見えるだろうと、Qayoom氏は考えています。「血が流れることになるでしょう」と、Qayoom氏は述べました。

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in メモ,   ネットサービス, Posted by log1h_ik

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