ネット検閲や国際社会の制裁が開発をいかに難しくするかをイラン人開発者が告白
by Lukas
中東にあるイスラム国家のイランは世界有数の石油の産出国であると同時に、核開発を行っているとして国際社会から非難や制裁を受けています。そんなイランではインターネットの規制が厳しく実施されており、イランにおけるソフトウェア開発者は厳しい状況に置かれていると、イラン在住の開発者であるShahin Sorkh氏が述べています。
How is it like to be a dev in Iran | Shahin Sorkh’s Blog
https://shahinsorkh.ir/2019/07/20/how-is-it-like-to-be-a-dev-in-iran
世界にはインターネットの検閲を行う国が少なくありませんが、中でもイランでは強いインターネット規制が敷かれているとのこと。BBCやFoxニュースといったメディアからTwitterやFacebookなどのSNS、TelegramやWeChat、SnapChatなどのメッセージアプリ、YouTubeやソースコードリポジトリのSourceForgeのサブドメインまでが、イランではアクセスできない状況となっています。
Sorkh氏はこの状況について、イランのような全体主義国家が生き残るにはインターネットのフィルタリングや検閲が必要だからだと指摘。イラン政府公認のブロッキングをかいくぐるVPNサービスやプロキシサーバーも存在していますが、これらの通信は政府が監視している可能性が高いそうです。そのため、イランにおいてはフィルタリングサービスやサイバー検閲を行うIT企業は、典型的なIT企業と比較してかなり多い報酬を得ているとSorkh氏は述べています。
厳しいインターネット規制を行っているのはイランだけではありません。たとえば中央アジアの一党独裁体制国家であるカザフスタンにおいては、政府認証のルート証明書導入を国民に強制し、暗号化されているHTTPS通信が中間者攻撃によって政府に傍受されていると報じられました。
独裁国家が政府認証のルート証明書導入を国民に強制、ISPによる中間者攻撃も確認される - GIGAZINE
また、イランの開発者を脅かしているのはイラン政府による検閲だけではなく、国際社会からの制裁も大きなダメージとなっているとのこと。国際社会による制裁は、フリーソースソフトウェアやオープンソースソフトウェアの利用ができないという形で、開発者らにとっても大問題になっているそうです。ビジネス向けのコミュニケーションサービスであるSlackは、2018年にアメリカの経済対象国であるキューバ・イラン・北朝鮮・シリア、ウクライナのクリミアといった地域からの使用を禁止する措置をとりました。これにより、事前通知なしで多くのイラン人ユーザーがアカウント停止に陥り、Slack上のデータを失ってしまったとのこと。Slackのケースでは、制裁の時点で海外に在住していてもう何年もイランに帰国していない人々や、単に過去に制裁対象国を旅行で訪れただけの人々もアカウント停止に追い込まれてしまったとされています。
また、経済的な制裁も開発者らにとって痛手となっています。MasterCardやVISAのクレジットカードを入手することが困難なイラン人開発者らは、利用するのに特定のクレジットカードが必要なサービス、たとえばAmazonが提供するAmazon Web Servicesなどの利用ができません。また、AmazonやeBayで何かを購入することもできないとのこと。
by Djordje Petrovic
こういったイラン人開発者が追い込まれている状況は、他の国に住む開発者らにとって理解しづらいものだろうとSorkh氏は認めています。しかし、Sorkh氏は「あなたが会社のための新しい技術開発を、何も事前知識がない状態で開発することを想像してみてください」と主張。イランではソフトウェア開発のために必要な技術資料を見つけることすら困難だと訴えています。
たとえば必要な知識についてGoogleで検索すると、イラン人開発者らは多くのウェブサイトや公式文書へのリンクを発見します。しかし、リンクをクリックすると「あなたはアメリカによって制裁を受けているのでページを提供できません」と表示されてしまい、仕方なくイランでも表示されるページを探してうろうろするハメとなります。結局開発に必要な情報が入手できず、上司に「この技術はイランでは実行できません」と言えば仕事を解雇されてしまうとのこと。
by Public_Domain_Photography
Sorkh氏はイランにおいて開発者が生き残るには、政府による検閲と他国からの制裁という2つの障害を掻い潜らなければならないと指摘。たとえばプロキシサーバーを使用して制裁対象のウェブサイトを見ることは、国外からの制裁によって通常は見られないウェブサイトを利用する一つの手段であり、シャリーフ工科大学が提供する制裁を掻い潜るためのプロキシサーバーも存在しています。しかし、教育機関を含む政府が提供するサービスを利用すると通信内容が傍受されてしまうほか、政府自身が検閲するウェブサイトについては意味がありません。
また、イラン政府はVPNサービスも提供していますが、これについても政府が提供するものは安全性の問題が付きまとうとのこと。一方、民間企業によるプライベートな非合法VPNサービスも販売されていますが、こちらは高価なもので全てのインターネットユーザーが使えるわけではないそうです。
あるいは匿名通信システムのTorを使うことも検閲と制裁の両方を回避する有効な手段ですが、Torを利用してアクセスできないサーバーが存在しているほか、何度もGoogleによるreCAPTCHAを要求されるのもストレスだとSorkh氏は述べています。また、もちろんイラン国内からTorを利用するのはそう簡単なことではなく、どうにかして外部サイトを通じてTorを利用する必要があるとのこと。
Sorkh氏は今回の主張を、一般的な人々が何も考えることなく使用しているインターネットの利用が、イランではどれほど難しいのかを伝えるために書いたとしています。多くの人々はYouTubeが利用できないことや予告なしで突然サービス内のデータが消失してしまうこと、検閲や制裁を掻い潜ることの困難さについて知らないとSorkh氏は指摘。イラン人開発者が見舞われているこれらの不便さは、全て「イランに住んでいる」という理由だけで発生しており、世界中の人々はそのことを気にかけていないとSorkh氏は述べました。
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