世界で初めて「炭素原子だけで構成された環」を作り出すことに成功
by kalhh
炭素原子は互いにさまざまな方法や形で結合し、カーボンナノチューブやダイヤモンド、グラファイトなど、数多くの同素体が確認されています。炭素の同素体として存在する可能性が指摘されていながら、多くの化学者が作ろうとしても失敗してきた「炭素原子が並んで構成された環」を、ハーバード大学やIBMの研究チームが作り出すことに成功しました。
An sp-hybridized molecular carbon allotrope, cyclo[18]carbon | Science
https://science.sciencemag.org/content/early/2019/08/14/science.aay1914
Chemists make first-ever ring of pure carbon
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02473-z
カーボンナノチューブでは1つの原子が3つの原子と結合していますが、ダイヤモンドでは原子が4つの原子と結合しているなど、炭素原子はさまざまな構成で他の原子と化学結合することが可能。また、炭素原子は近くにある2つの原子とだけ結合することも可能であることから、両サイドで炭素原子と結合した組みあわせを環状にすることで、「炭素原子のみで作られた環状の炭素同素体」が作り出せるはずだといわれてきました。
この炭素原子の環は「Cyclocarbon」と呼ばれており、多くの化学者らが合成しようと試みてきましたが、試みは失敗続きでした。環状の構造はやダイヤモンドやグラフェンなどと比較して化学的な反応性が高く、特に曲がった時の安定性が低くなるとのこと。
by geralt
オックスフォード大学の化学者であるPrzemyslaw Gawel氏やLorel Scriven氏の研究チームは、そんなCyclocarbonを作り出すために研究を続けてきました。研究チームは最初に炭素原子だけでなく酸素原子を含んだ環を作り、その環をスイスにあるIBMの研究所に送って、研究所の設備で環から酸素原子を取り除いてもらう方法を試みたそうです。
共同研究者であるスイスの研究チームは、真空チャンバーの中で塩化ナトリウム層の上にオックスフォード大学から送られた環を乗せ、電流を使って環の中から酸素原子を取り除く作業を行いました。試行錯誤の後、研究チームは炭素だけからなる環、つまりCyclocarbonを作り出すことに成功しました。完成したCyclocarbonは炭素原子が18個並んだ構造になっていたそうで、Scriven氏は「私がこれを見られるとは思ってもいませんでした」とコメントしています。
IBMの研究者が顕微鏡でCyclocarbonを調査したところ、炭素の環は単結合と三重結合を交互に持っていることが判明。Cyclocarbonがどのような結合になっているのか、これまで理論が一致していませんでしたが、実際に作り出すことでようやく決着がついたとのこと。
単結合と三重結合が交互になった構造はCyclocarbonに半導体の性質を与えるため、将来的にはCyclocarbonの性質を利用して分子サイズの電子部品に応用できる可能性があるそうです。Gawel氏は今後もCyclocarbonの性質について調査を続けるとしており、Cyclocarbonを量産する方法についても研究を行う予定だとのこと。
大阪大学の化学者である戸部義人教授は、「私を含む多くの化学者がCyclocarbonを捕獲して分子構造を決定しようとしてきましたが、無駄に終わりました」「これは素晴らしい仕事です」と、研究チームの成果を称賛しました。
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