パイロットが操縦桿に触れることなく完全自動で飛行機を着陸させることが可能なシステム「C2Land」
ドイツの研究者チームが、小型の飛行機向けのパイロットなしでも自動で着陸可能となる「自動着陸システム」を開発することに成功しました。「C2Land」と呼ばれるこのシステムは、既存の自動着陸システムで用いられるような「電波を用いた着陸誘導装置」を必要としないため、「自動飛行の新しい時代を切り開くことができるかもしれない」と海外メディアのTechCrunchは記しています。
Watch a plane land itself truly autonomously for the first time | TechCrunch
https://techcrunch.com/2019/07/05/watch-a-plane-land-itself-truly-autonomously-for-the-first-time/
自動運転車などの登場により、飛行機に搭載されている自動操縦システムでも容易に着陸などの操作ができると考える人も多いかもしれませんが、実際は記事作成時点で大型旅客機などに搭載されている自動着陸システムは、システムのみで完全に自動で動作するという類いのものではありません。
既存の自動着陸システムである計器着陸装置(ILS)は、主要な空港に存在する地上施設から電波を発射することで、航空機を安全に滑走路上まで誘導するというものです。地上施設から発射される指向性誘導電波により、視界が悪くても滑走路の位置を正確に捉えることが可能になるのですが、着陸自体はめったに自動で行われることはないとのこと。そのため、多くの場合、パイロットが自動着陸システムを補助代わりに使用しており、これはILS以外の既存の自動着陸システムを用いたケースでも同様だそうです。
それに対して、ミュンヘン工科大学の研究者たちが開発を進めているのが、ILSのように地上施設に頼ることなく飛行機が単独で自動着陸を行えるようなシステムの開発です。研究チームは「C2Land」と呼ばれるこのシステムの実証実験を行い、見事パイロットが操縦桿に触れることなく、安全に自動で飛行機を着陸させることに成功しています。実証実験の様子は以下のムービーから確認可能。
Vollautomatische Landung mit optisch unterstützter Navigation für Kleinflugzeuge - YouTube
フライトの途中で計器の中のスイッチを押すと……
「オートパイロット」という音声が鳴り、自動操縦システムがオンになりました。
そのまましばらく自動操縦が続き、着陸地点の近くに来たところで「自動着陸を実行します」とシステムがアナウンス。
ILSでは地上施設から電波を受信することで滑走路の位置を正確に認識できるようになりますが、C2Landでは赤外線カメラとRGBカメラを用いて撮影した映像から、システムが独自に滑走路の位置を判断します。
以下の画像の緑色の線で囲まれた場所が、赤外線カメラの映像からC2Landが滑走路と判断した位置。
同じく、以下の画像の緑色の線で囲まれた場所が、RGBカメラの映像からC2Landが滑走路と判断した位置です。
パイロットは操縦桿を握らずに、膝の上に手を載せています。
地面スレスレの位置でもパイロットは膝に手を置いたまま。
そのまま無事着陸に成功。
C2Landの実証実験で使用された小型の飛行機は、ダイヤモンド・エアクラフト製の「Diamond DA42」という機体。独自カスタムされた自動コントロールシステムと、コンピュータービジョンプロセッサーを合わせて「C2Land」という自動着陸システムとして呼称されています。
実験でテストパイロットを務めたThomas Wimmer氏は、「カメラはすでに空港から遠く離れた場所にある滑走路を正しく認識しています。このシステムは航空機を完全に自動で着陸進入位置まで誘導し、滑走路の中心線に正確に着陸させることができます」とC2Landの自動着陸についての感想を語っています。
既存の自動着陸システムでは地上に大規模な設備を準備する必要があったため、C2Landのような飛行機上のシステムだけで正確な自動着陸が可能になるシステムの存在は、飛行機のオートパイロットシステムにとって画期的なマイルストーンとなるとTechCrunchは指摘。
なお、C2Landはまだ実験段階にあるシステムであり、実用化に向けてはさまざまなレベルのテストや航空当局からの認可を得る必要があります。それでも安全上の利点は明白であり、既存のめったに使用されない自動着陸システムのバックアップ、あるいは代替として歓迎すべきものであるとTechCrunchは記しています。
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