4カ月で2件の墜落事故を起こしたボーイング737 MAX 8のシステム操作がパイロットに周知されていなかった可能性

by Alec Wilson

2018年10月にインドネシアで発生したライオン・エア610便墜落事故について、事故当時を再現したシミュレーションを行ったところ、事故機であるボーイング737 MAX 8で誤作動を起こした自動制御システム無効化の手続きを受け付ける時間が非常に短かった上に、無効化するプロセスが十分にパイロットに訓練されていなかった可能性があると、シミュレーションの関係者がニューヨーク・タイムズに明かしました。

In Test of Boeing Jet, Pilots Had 40 Seconds to Fix Error - The New York Times
https://www.nytimes.com/2019/03/25/business/boeing-simulation-error.html

Lion Air 737 MAX crew had seconds to react, Boeing simulation finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/information-technology/2019/03/simulations-show-lion-air-737-crew-had-little-time-to-prevent-disaster/

飛行機が空を飛ぶためには、気流に対する翼の角度(迎角)を上げる必要があります。しかし、迎角を上げすぎてしまうと飛行機は急に失速し、不安定な状態となってしまいます。そこで、この迎角を調整して失速しないように自動的に機首を下げるシステムが操縦特性増強システム(MCAS)です。

2018年10月29日に発生したライオン・エア610便墜落事故と2019年3月10日に発生したエチオピア航空302便墜落事故で運用されていたボーイング737 MAX 8では「機体の迎角に問題がないにも関わらず、MCASの誤作動によって機首が自動的に下がり、墜落してしまったのではないか」という見方が強まっています。また、「MAX 8に搭載されているMCASは従来の737のものとはまったくシステムが異なっている上に十分な訓練がされていない」とパイロットから苦情が上がっていたことも報じられました。

2度の墜落事故が起きたボーイング737 MAX 8についてパイロットから苦情が寄せられていたことが判明 - GIGAZINE

MCASによって飛行機の機首が下がり始めた場合、パイロットは操縦かんにあるスイッチを親指で押して、MCASによるコントロールを一時的に打ち消すことができます。しかし、ライオン・エア610便から回収されたデータを元にシミュレーションを行ったところ、離陸直後にMCASが誤作動して機首が下がって墜落するまでMCASが3回作動し、回復不能なレベルにまで急降下してしまうまでわずか40秒だったことがわかりました。

by Live from the Flight Deck

回収されたデータからは、ライオン・エア610便のパイロットがこのスイッチを24回以上も押していることが判明していて、トリムコントロールによる機首調整を何度も行うための策だったのではないかと推測されています。

MCASを完全に無効にするためには、自動制御用のモーターへの通電を遮断して手動でコンソールのトリムホイールを回して手動制御を再確立する必要があります。シミュレーションを担当したパイロットは事前にMCASを無効化する手段を知っていたため、無事手動による制御に切り替えることができたそうですが、ライオン・エア610便のパイロットはこのMCASを無効化する手段を知らされていなかったのではないかと予想されています。

by Thai Civil Rights and Investigat (TCIJ)

ボーイングの広報担当者は、ライオン・エア610便の墜落事故後はパイロットへのMCAS無効化の手順訓練を強化したと述べ、「ソフトウェアアップデートによって、システムに対する制限の追加と安全対策が採用され、乗組員の作業負荷が軽減されます」とコメントしました。