巨大な物体を光を当てるだけで浮かせて正確に制御できる新理論が発表される
by Sambeetarts
光を当てて宇宙探査機を加速させるという試みはこれまでも計画されてきましたが、わずか数mmサイズの宇宙探査機であることが前提になっていたり、宇宙空間を漂う星間物質が障害になったりと、難しい課題を抱えていました。カリフォルニア工科大学が提唱した理論が実用化すれば、光で動かせる物体が一気にメートルサイズにまで拡大され、理論上の存在だった光による推進技術が現実のものとなる可能性が高まると期待されています。
Self-stabilizing photonic levitation and propulsion of nanostructured macroscopic objects | Nature Photonics
https://www.nature.com/articles/s41566-019-0373-y
Levitating Objects with Light | www.caltech.edu
https://www.caltech.edu/about/news/levitating-objects-light
カリフォルニア工科大学のハリー・アトウォーター教授が率いる研究チームはネイチャー フォトニクス誌に掲載された論文の中で、物体の表面にナノスケールの模様を描くことで光で物体を動かす「Self-stabilizing photonic levitation(自己安定光子浮揚)」の理論を発表しました。
光で物体を動かすという技術自体は「光ピンセット」として既に実用化されていますが、これは強力に収束させたレーザーによりナノサイズの物体移動させる技術です。論文の共著者であるOgnjen Ilic氏はこの光ピンセットについて「ドライヤーの風でピンポン球を浮かせることはできますが、ピンポン玉が大きかったりドライヤーから離れてしまったりすればうまくいかないとの同じで、宇宙探査機を深宇宙に送り出す技術には応用できません」と説明しています。
by Seongbin Im
研究チームが提唱した「自己安定光子浮揚」は、物体の表面にナノスケールのエッチング加工を施すことで、照射された光を反射する過程で物体の動きが「自己安定化」し、進行方向からずれても自動的に修正されるとのこと。強力な収束ビームを使用しなくても宇宙空間でメートルサイズの物体を動かすことが可能で、光源から対象まで数百万km以上離れていても作用するため、宇宙開発分野での応用が期待されています。
by cookelma
将来的には燃料ではなく地球から照射する光により光速に近い速度まで加速する宇宙探査船を実現させることができるほか、ナノサイズの電子回路などの工学的分野への応用も可能だとのことで、アトウォーター教授は「実現にはまだ長い道のりが残されていますが、既に実験段階まできています」と述べています。
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