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人工知能開発の天才デミス・ハサビスが率いるDeepMindの野望と親会社Googleとの攻防とは?

by George Gillams

ロンドンで生まれ育ったデミス・ハサビス氏はゲーム開発などのキャリアを経た後、2010年にAI研究の最前線を走る企業DeepMindを立ち上げてCEOを務めています。DeepMindは2014年にGoogleに5億ドル(約550億円)で買収されて話題を集めたほか、2016年にはDeepMindが開発したAIの「AlphaGo」が囲碁のトップ棋士を打ち破って大きな反響を呼びました。イギリスの文化誌「1843」のライターであるHal Hodson氏が、ハサビス氏の個人像および野望、さらにDeepMindと親会社であるGoogleとの攻防についてまとめています。

DeepMind and Google: the battle to control artificial intelligence | 1843
https://www.1843magazine.com/features/deepmind-and-google-the-battle-to-control-artificial-intelligence

2010年8月、Singularity Summit(特異点サミット)という年次サミットにおいて、ハサビス氏は汎用人工知能(AGI)についてのスピーチを行いました。特定の分野に特化したAIとは違って人間のようにさまざまなタスクを解決できるAGIは、脳容量に制限される人間の頭脳とは違い利用可能なプロセッサーにのみ知能が制限されます。

ハサビス氏はAGIの実現について、制御されたプログラムで構成されるのでも人間の脳を物理的にコピーするのでもなく、脳のソフトウェア的な理解することが重要だと主張しました。脳が情報を処理する方法や活動についてMRIなどを用いて研究することが、AIおよびAGIの開発に役立つとハサビス氏はサミットで述べました。

実はこのサミットにおいて、ハサビス氏は初めてDeepMindという会社について公に発表しました。「ハサビス氏のサミットでの講演はシリコンバレーの投資家らに向けたアピールであり、DeepMindへの投資を受けることが目的だった」とHodson氏は記しており、結局DeepMindは200万ポンド(約2億9000万円)の投資を集めることに成功しました。そして2014年にはGoogleが5億ドル(約550億円)でDeepMindを買収し、初期投資からは実に50倍ものリターンを得ることに成功したとのこと。


幼少期のハサビス氏は世界でも有数のチェスプレイヤーとして名をはせており、13歳の時点で年齢別世界レーティングで2位に付けていたとのこと。しかし、16歳の時点で高校卒業レベルの認定を受けたハサビス氏はブルフロッグ・プロダクションズというゲーム会社でゲーム開発者としてのキャリアをスタートし、仮想空間上の遊園地を運営する「テーマパーク」というシミュレーションゲームのデザイン補助とリードプログラミングに携わりました。当時のハサビス氏はゲームを開発するだけでなく、チェスやスクラブル、ポーカー、バックギャモンなどのゲームをプレイすることにも熱中していたそうです。

ブルフロッグ・プロダクションズを離れて1997年にケンブリッジ大学に籍を移してコンピューターサイエンスを学んでいたハサビス氏は、ケンブリッジ大学の囲碁チャンピオンであったチャールズ・マシューズ氏が開催した学生囲碁トーナメントに参加しました。まだ囲碁経験の乏しかったハサビス氏ですが初心者トーナメントで優勝し、次に経験者大会で優勝した学生も倒してみせたとのこと。マシューズ氏はまだ初心者であったハサビス氏が経験者を倒したことに衝撃を受けたと述べています。

ハサビス氏は当時から「ゲーム」に対して非常に強い関心を抱いており、ゲームによって知性を大いに刺激されていました。やがてハサビス氏は自身が経験を蓄積してゲームの腕を上げていったのと同様のことが、コンピューターにも可能なのかと疑問に思い始めたのだろうとHodson氏は推測しています。1998年、ハサビス氏はロンドンを拠点としてエリクサー・スタジオというゲーム会社を設立。政治シミュレーションゲームである「Republic: The Revolution」などのゲームを発表したのち、2005年にエリクサー・スタジオが閉鎖されたことから、マシューズ氏はハサビス氏が単に経営経験を得るためだけにエリクサー・スタジオを設立したと考えているとのこと。

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その後、ハサビス氏は脳神経科学の研究をスタートします。AIの開発において人間の脳を理解することが重要だと考えていたハサビス氏にとって、神経科学的な分野の研究は必要不可欠なものでした。これまで生物学的な分野に触れてこなかったハサビス氏でしたが、「海馬を損傷した患者は記憶喪失を引き起こすだけでなく、新しい体験をする自分自身を想像できない」とする論文は一部の研究者から疑問視されつつも1000回以上引用されるなど、非常に高い評価を受けています。

ハサビス氏が2010年に設立したDeepMindにはヨーロッパ中から多くの優秀な人材が集まり、DeepMindではヨーロッパ中から集まった優秀な人材が、機械学習に焦点を当てて先駆的な研究を行いました。この機械学習手法は環境に関する情報を収集し、繰り返し経験を蓄積していくというものであり、ハサビス氏が支持する記憶と経験の蓄積による人間の学習方法にのっとったものでした。この結果として、2016年にAlphaGoが囲碁チャンピオンを打ち破るという成果を得ることができたとのこと。


2014年にはGoogleがDeepMindの買収に乗り出しましたが、この際にハサビス氏が重視したのが「DeepMindの独立性を保護すること」だったそうです。DeepMindにとってもGoogleの持つ資金などは魅力的でしたが、ハサビス氏はすでにゲームを開発して研究資金を手にするプランも練っていたとのこと。そこで、「GoogleはDeepMindの知的財産を一方的に管理できない」という取り決めを交わし、DeepMindがAGIにつながるテクノロジーを作成した際には、専用に設立した倫理委員会がAGIテクノロジーを管理するという契約もなされました。ハサビス氏はGoogleに買収されたとしてもDeepMindの独立性を保ち、倫理的監視を機能させることを重要視していたようです。

また、ハサビス氏が従業員に与える独創的なプロジェクトや、学会の煩わしさから解放された研究環境は、DeepMindと従業員の結びつきを強めているともHodson氏は指摘。ハサビス氏に対して向けられる一種の忠誠心が、DeepMindにおいて強く作用しているとのこと。


独立性が保たれているDeepMindは多くの研究成果を世に送り出してきていますが、その一方でGoogleに対して請求する研究費用は膨大なものとなっているとのこと。しかし、Googleがプライバシーの問題などで世間から非難されている時には、世界を改善する意図を持つDeepMindのAI研究の成果が、親会社であるGoogleの評価を上げることにつながります。また、Googleの共同創業者であり現在はGoogleの親会社であるAlphabetでCEOを務めるラリー・ペイジ氏がAIに理解を示している点も、DeepMindにとって追い風となっています。

しかし、近年ではDeepMindの独立性がGoogleによって脅かされかねないという懸念も引き起こされています。DeepMindのヘルスケア部門であるDeepMind Healthは、患者の健康状態が悪化した時に医師や看護師へ通知する「Streams」というアプリを開発しており、イギリスの国営医療サービス事業であるNHSと協力して運用してきました。

Streamsはアプリの性質上患者の機密情報にアクセスするものであり、DeepMindも機密情報の取り扱いには慎重を期していたとのこと。ところが2018年11月にGoogleは自社のヘルスケア部門であるGoogle Healthの設立を宣言し、その5日後にはDeepMind Healthの併合を発表しました。この動きについてDeepMindは、DeepMind Healthが結んだ病院との契約がGoogleとの契約に自動で移行するものではないとしていますが、DeepMind Healthの従業員は怒りを見せているとHodson氏は述べています。

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また、Hodson氏はDeepMindが開発するAIについて、非常に魅力的であるとしつつも、繰り返し学習を行ったAIは当初設定された特定の仮装条件下においてのみスキルを成長させると指摘。人間であればすぐに対応できるような微妙な条件の変更であっても、AIはこれまでの学習を引き継いで対応することが難しくなってしまうとのこと。

そしてAlphaGoなどの開発で重要視されてきたのは、複雑なゲームについてよりよい結果を得るとAIに報酬が与えられるように設定し、AIがより高い報酬を得られるように訓練を行うというシステムです。ルールに対する報酬付けはAI開発で重要な要素ですが、ゲームのように決まり切ったルールに沿って動かない現実の世界では複雑な条件が絡み合うため、さまざまな問題に対処するAGIを開発するのは非常に困難だとHodson氏は考えています。

もしもDeepMindがハサビス氏の望み通りこの世のあらゆる問題を解決するAGIを開発できたならば、ハサビス氏はこれまでに挑戦したどのゲームよりも難易度の高いゲームをクリアすることになるだろう、とHodson氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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